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前方を眺めていた天音が唐突に顔を傾けた。
冬森は天音の横顔を眺めていたので。
当然の如く二人の視線はばっちり重なるわけで。
なんだこれ、ほんと青春シチュエーションじゃねーか。
夜じゃなくてまだ明るいからだろーか。
月食あった日はすげー心臓バクバクしたけど。
今はそーでもねー。
天音の一重の目、きれーだな。
そんなことを改めて思うヨユーはある。
「もう俺に触んねーの?」
眼鏡越しに冬森をじっと見ていた天音は。
コクンと、頷いた。
あっれーーーーーーー?????
いやいや、天音クン、違うだろー、ここはあれだろー、がばっ! がしっ! ぶちゅっ! じゃねーの? なに勝手に俺の青春裏切ってくれてんだよー?
そだな、あれは月食の呪い……いや、奇跡だったのかもな。
むしろ幻だったのかもな。
「ふーーーー……もうハゲワシ行ったみてーだな、じゃあ上の教室戻っか」
「夏川は」
へ?
急に夏川がどした?
「夏川は大胆だな」
「へっ?」
「人前で堂々とお前に抱きついて」
「あーーーー……アイツは中学ン頃から人懐っこいっつーか、おばあちゃんっこで、時々よくわかんねー言葉使うの、あれ、ウケるんだよな」
「……」
「かわいー顔してがめついしな」
「……」
「上から目線で別れてやるからって、色んなモン買わされた」
「え……?」
「まだアイス奢れって言ってくるしな、ヨリ戻そーとか、でも、そもそも付き合ってたわけじゃねぇし……そーいうノリだったし……そーいうの金輪際やめっし……」
だって俺、今はお前のこと好きだからさー。
そう心の中で呟いて立ち上がり、ぽんぽんケツをはたき、その場で回れ右した冬森は閉ざしていたドアに手をかけ、た、ドンッ、いきなり後ろから伸びてきた手がまるでドアが開かれるのを拒むように、壁ドンならぬドアドン、びっくりした冬森、さっきまで座っていたはずの天音はいつの間にか立ち上がっていて、冬森が肩越しに視線をやれば、すぐ真後ろにいて。
「天音―――……」
重なり合った唇。
「ッん」
呼吸が止まる。
胸底が痺れる。
体中が一気に発熱する。
俺、キスしてんのか、天音と。
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