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10-ある日の夕暮れだゾ
放課後、酒屋の隣のパン屋に寄り道しておやつを食べ、だらだら冬森に閉店まで付き合って。
外に出れば日が暮れかけていた。
「天音、バス来るまで待ってろ」
バス停で冬森にそう命じられていっしょにベンチに腰を下ろした天音。
三分後。
「んが」
冬森は寝てしまった。
天音の肩に頭をもたれさせ、両足は歩道にだらーん、明らかに通行人の邪魔になっていた。
「冬森、足が」
天音がそう声をかけても眠ったまんまだ、仕方ないので邪魔くさそうにしている通行人に天音が代わりに頭を下げた。
藍色が次第に深まって茜色がゆっくり薄れていく。
車道に溢れる車のヘッドライト。
頬に触れる風はひんやり冷たい。
「……」
冬森の乗るバスがやってきた。
停車し、ドアが開かれて、割と混んでいる車内に次々と乗り込む人々。
そうして閉ざされたドア。
排気ガスを撒き散らして車道を去っていく。
「なんで起こさねーんだよ」
肩のところで眠っていると思っていた冬森が急に口を開いたので天音は純和風まなこを瞬かせた。
「冷血めがね。外道めがね」
しょうもないことを口走る冬森に天音は「足が通行の邪魔になってる」と注意した。
どこか空気が褪せた季節の変わり目。
肌が渇く夜の入口。
「もう少し一緒にいたいと思って」
ネクタイがだらしなく緩んでいた冬森は「えろめがね」と呟いた。
声を出す際に肩伝いに届く微振動。
夕闇を反射した眼鏡。
ひんやりが増す時間帯、服越しに滲むように感じる温もり。
「俺も。天音」
明日また会うのに。
今、この時間、離れたくない。
無言で、でも互いに、制服の陰で手と手を繋げて。
また一台、バスを乗り過ごした。
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