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13-番外編-冬森が天音が合コンに行くゾ
「冬モン、次の金曜合コンむり?」
休み時間、窓際の席で寝かかっていた冬森の元へ割と親しいクラスメートがいそいそやってきた。
「女子が連れてきて~って、うるさくてさ」
「はぁー?」
「だめ? なんか予定ある?」
「特にねーけど」
特にねーけど、ほら、隣の奴が捲りかけた小説のページ、ぴたっと止めてんの、お前気づかねーかな?
「俺の嫁が許してくんねーかな」
「え?」
「……嫁とは、俺のことか、冬森」
「他に誰がいんだよ、天音さーん?」
「え? え? え?」
褐色男子と眼鏡男子の狭間でモブ友クンはきょっとーん。
動向を気にしている天音をモブ友クン越しにまじまじにやにや眺めていた冬森は、おもしろいことを思いついた。
「行ってやってもいーぞ」
「お、助かる、それでこそ冬モン!」
「……」
かるーい冬森に天音は思わず閉口する。
そんな天音の姿にめろめろしながら冬森は続けた。
「でもいっこ条件つき、な」
「冬モンひさびさー」
「ども、ひさびさー」
「あれー、後ろだれ? 初めて見るよー」
「ん、これ? 俺の嫁」
「「「えーーーー」」」
放課後、カラオケルームの一室。
先に来ていた女子が注文していた大皿メニューやらグラスやらでとっ散らかったテーブル。
隣から聞こえてくるへたっぴな歌声。
「はじめまして」
初合コンに特に緊張するでもないが、向かい側のソファに座った、人見知りとは無縁な女子のテンションにやや戸惑いつつ天音は律儀に会釈した。
「俺の嫁の天音でーす、俺の隣の席で美化委員でーす」
すぐ隣に座った冬森、まじまじにやにや、しっぱなしだった。
「えー天音くんが冬モン攻めんだよねー?」
「攻められたら冬モンどーなるのー?」
「ひーひー言うの?」
「ひーひー……?」
「ねー天音くんも歌ってよ」
「ききたーい」
「俺もー天音の歌ききたーい」
「やめてくれ、冬森」
「歌がだめならちゅーでもいーよ」
「ちゅーしろ」
「ちゅーしやがれ」
「ちゅーちゅーちゅーちゅー」
女子のちゅーコールに天音はただただ困惑する、えろあほ冬森は別にいーんじゃねーかと、隣の眼鏡男子にするりと腕を。
「これ、するしかねーな、天音?」
「本気か、冬森、人前で」
「だってちゅーちゅーちゅーちゅーうるせーから、ネズミちゃんどもが」
「……あのな」
ほっぺたにちゅーするつもりの冬森を押し返そうとした天音だったが。
「前はしてくれたよー?」
「え……?」
「夏川くん、だっけ、冬モンにぶちゅーーーーって」
「夏川が、冬森に……」
「うん、そーそー、ぶちゅーーーーって」
「よく覚えてんのな、お前ら」
「冬モン、満更でもなさそーだった」
「満更してねぇわ、あんなん単なる余興だ、ッ、うわ……ッ!?」
いきなり強い力で両肩を掴まれて冬森はどきっとした。
目の前には、緊張もしていない、戸惑ってもいない、ただただ真顔の天音が迫っていた。
「そうだな、この状況は、もうするしかないな、冬森」
ちょ、え、あれ、おい、天音?
その角度だと口だぞ?
なにお前マジでガチなちゅー、しよーとしてんの?
あ、やっぱ睫毛、なが。
じゃねぇ、うわ、待て、こら、むり、だろ、むり、むり、はずい、
「むむむむむむッむりぃぃぃぃ!!」
「あんときの俺、さいこーにダサかったわ」
「? じゃあすればよかっただろう」
「いーやーでーす」
「最初にしようとしたのは冬森なのに」
変な奴だ、とキッチンでお湯を沸かす準備をしながら天音は呟いた。
夜九時前の天音宅。
どこか遠くで聞こえるサイレン。
テレビのチャンネルをぽちぽち回していた冬森、ソファにリモコンを放り投げ、立ち上がると。
コンロ前に立つ天音の背中にぎゅっと。
「バカが、なんでお前とのガチちゅー、他の奴に見せなきゃなんねーんだよ」
「……特別扱いか?」
「調子乗んじゃね」
「すまない」
うそうそ、調子乗っていーぞ、天音?
心の中でそう囁きかけて背伸びした冬森は特別眼鏡男子に肩越しにガチちゅーするのだった。
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