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「教科書見せろ、天音ー」
引き出しの中に教科書がありながら冬森は忘れたフリをして天音の席に席をガタガタくっつける。
慣れっこの天音はもう特に何も言わない、机と机の間に教科書を置いて、ページを捲る係もやってくれる。
わざと肩に肩をくっつけてみればそっと苦笑する。
イタズラに足を踏んでみても然り。
この間、隙ありと言わんばかりに耳をかぷっとやったら、さすがに押し返されたが。
『ッ、もう少し……待ってくれ、冬森』
俺に突っ込んでる天音、えろくて、ちょいワガママで、好きだけど。
俺が突っ込んだら、こいつ、どんななんのかな。
やっぱ痛がる?
泣くか?
伏し目がちにノートをとる際の横顔。
ストイックな線を描く頤。
ボールペンを滑らかに操作する骨張った長い指。
そだな、このきれいな真っ黒な髪、ぐちゃぐちゃに乱しながら、俺の、奥まで突っ込んだら……さすがの天音でも泣くかもな。
いつもよりもっとえろい声出すかもな。
「なぁ、天音ー」
「なんだ」
至近距離から視線をびしばし横顔に浴びていた天音は小声で冬森に聞き返した。
えろあほ冬森はさらに眼鏡男子に身を寄せると、こそっと、耳打ちした。
「次の金曜、俺が天音に突っ込んでもい?」
「……わかった」
……………………え?
まるで様子を変えずにノートの書き取りを淡々と続ける天音に冬森は、ぽっかーーーーーん。
まさかこんなにもすんなり受け入れられるとは夢にも思っていなかったから。
突っ返されたり、呆れられたり、ため息をつかれると、そう思っていたから。
「……え、え、ええええ!?」
「冬森ぃ! てめぇうるッせぇんだよ!」
普段は温厚な女教師にブチ切れられて、それでも嬉しそうに爛々と目を輝かせているえろあほ褐色男子。
天音はそこでやっと呆れたように苦笑した。
そして火水木が一気に過ぎ去って金曜日となった。
「……冬森、がっつき過ぎだ……」
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