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17-番外編-夏川が
―――ずっと気になってて。
―――付き合うとか、むりかな、だめかな?
(亜砂 の場合)
「うわぁ。ありがとー。でも俺、まだカノジョとか付き合うとか、早いかなぁって……友達からでもいーい?」
(櫻井 の場合)
「……あー……ごめん。なさい。で」
亜砂と櫻井は幼馴染み。
幼稚園も小学校も同じ、そして中高一貫の私立学校に現在もいっしょに通っている。
「お腹へったぁ。昼休みまで待てない……」
パーカーにブレザーを羽織って、パツキン頭、176センチ、いつもお腹を空かせている亜砂。
「新しく買ったイヤホン、音がイマイチ……やっぱケチらなきゃよかった」
ブレザー代わりにパーカーを羽織って、授業中でも耳に時々イヤホン、175センチ、音楽大好きな櫻井。
顔良しスタイル良しな二人はまぁまぁモテる。
でもまだ異性にそんなに興味がない二人。
亜砂は友達とわぁわぁつるんでいる方が楽しくて。
櫻井は無料アプリで好みの音楽を探す方が楽しくて。
誰かを本気で好きになるなんてまだ先のことだと思っていた。
「2Bの仮装カフェに来てね!!」
だけど二人は出会ったのだ。
秋行事の一大イベント、文化祭。
多くの生徒が浮き足立つ校舎内、あっちこっちにカラフルな風船、それぞれの教室から流されてごっちゃになる上半期ヒット曲。
「手作りクッキーとかマフィンとかあるからぜひ寄ってみてね!!」
ふりふりぶりぶりなメイド服。
お決まりツインテール。
眩いばかりの絶対領域。
「なっちゃん、企画委員呼んでるー」
「ほーい、じゃあ絶対来てねー!!」
声で男だとはわかっていた。
そもそも男子校であるし。
それでも、たとえ身長170センチ以上でも、そのかわゆさに亜砂も櫻井も釘づけで。
二人は同じ人を好きになってしまった。
「ねーねー、冬森ぃ」
「うるせー、重てー、あっち行け、夏川ぁ」
「最近ねー俺ねーモテモテなんだー」
「はー?」
「この間の文化祭でね、女装したらね、それからね、ばんばん告られちゃって」
「それは男からか……?」
「そーなんだよー困っちゃうよねー童貞クン」
ぶっちゃけうざい。
どーせみんなチンコ見たら我に返って「勘違いデシター気の迷いデシター」なーんてノリで離れていくに決まってる。
「とりあえずチンコ見せて、冬森ー」
「お前、好き同士の間に入っていくのはお邪魔虫、むしろ虫以下って言ってなかったか?」
「んー? そーね、俺は虫以下チャンだからこーいうコトしても許されんのー」
「知るか、おら、教室戻れ」
「いでッ!」
同級生の背中に覆いかぶさっていた夏川は、顎に頭突きされて涙目になり、褐色男子から渋々離れると、隣席の眼鏡男子にあっかんべーして、その教室を出た。
予鈴が鳴っている。
急ぐでもなく自分の教室へたらたら戻る。
「なっちゃん……」
不意に背中に声をかけられて、立ち止まった夏川は、振り返る前に察するのだ。
あ、これ、まただ。
これから告白しますよーみたいな緊張感が声に滲んでる。
そんな緊張しなくてもいーのに。
どーせ断られんだから。
「……へ」
振り返った夏川はちょっと動揺した。
まさか二人いるとは思わなかった。
パーカー男子が二人、階段に続く壁の向こうで、なんかもぞもぞした感じで立っている。
知らない二人だ。
それなのに夏川は妙な既視感を覚える。
あれ、この二人、どっかで会った?
「あの、文化祭で、俺達、なっちゃんに声かけられて、その」
あの日は客寄せに必死で片っ端から声をかけまくっていた。
よって相手のことなどいちいち覚えていない、顔すらろくに見ていなかった。
なんかふわふわした「どっかで見たことあるよーな感」がある二人。
文化祭で声かけたこと、俺、記憶してるのかな、でもなんか違うよーな……。
夏川が自分たちのそばにやってくるとパーカー男子二人はもごもご。
壁にくっついたまま、ちらちら、夏川を見てくる。
「なっちゃん、その、かわいくて、その、女装してない今でも、その、かわいくて」
「ありがとー」
ふさふさパツキンの亜砂、かあぁぁっと耳まで赤くなり、ずっと口を閉じている人見知り櫻井も同様の反応を見せた。
「……なっちゃん、近くで見ても、かわいい……」
幼馴染みの肩に隠れつつ櫻井がぽつんと言う。
なんだかじゃれ合うみたいにくっつている二人の姿に、夏川は、はっとした。
あ。あ。あ。
わかった。
この二人、似てる。
ポチたんとミィちゃんに似てる。
すっごい似てるーーーーーーー!!
「ポポポポポチたん、ミ、ミ、ミィちゃん」
感激の余り、夏川は、日頃のクセを止められずに二人の頭を思わずなでなで。
撫でられた二人はさらにかあぁぁぁぁ、と赤くなった。
うわぁ、似てる、このフサフサ感、ポチたんそっくりじゃん。
こっちのさらさら感触も、ミィちゃんの毛とくりそつじゃん。
「か、かわいい、かわいいよぉぉ。なにこれ、どっから来たの? 二人、どこのコ? なんて名前?」
段ボールに入ったわんこにゃんこを相手にしているかのような夏川を、特にいぶかしがるでもなく、ぱぁぁぁぁっと嬉しそうに見つめる二人。
「俺、亜砂、2Dなの」
「……櫻井、俺も2D」
え、このコ達、冬森のクラスメート?
あ、違う。
このコ達、中等部だ、中学生だ。
俺や冬森よりでかいじゃん。
うわぁぁぁ、飼いたぁぁぁい♪
「はい、おて」
「わふっ」
「はい、みるく」
「んみゃ」
夕方の縁側、制服を着たままの夏川は愛犬と愛猫をぼんやり見つめる。
「ねー、ポチたんミィちゃん、あの二人、尿道攻めさせてくれるかなー?」
甘爽やかな笑顔で恐ろしい質問を繰り出す黒夏川、亜砂と櫻井がどえろ先輩男子の腹黒本性に気付く日はいつのことか……。
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