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期末テストを終えて後は終業式を待つだけ、はっぴーな冬休みを控えた、朝は布団から出るのが至極億劫な師走の真ん中。
「う~寒い~ぜんざいかお汁粉食べたい~」
他の生徒に紛れて登校していた夏川、チェック柄マフラーぐるぐる巻き、手袋、それでも寒そうにぶるぶるしている。
そんな夏川に背後から全速力で駆け寄ってきたのは。
「なっちゃん、おはよぉ!」
中学二年生の亜砂(パツキン頭/176センチ)だ。
パーカー上にあったかそうなショートダッフルコートを着た下級生は登校中に好きな人を見つけた嬉しさで猛ダッシュ、ほっぺたを赤くして飛びついてきた。
「おはよー、あさちゃん」
手袋をした両手で亜砂の顔を挟み込んでやれば、わんこ系男子は尻尾があればブンブン振りそうな調子で、わふわふ状態に。
そんな二人の元へ遅れてやってきたのは亜砂の幼馴染み、櫻井(さらさら髪/175)だ。
ムートンのもふもふ耳当てイヤーマフラーで音楽を聞いていた彼はそれを外し、ジップアップパーカーのポケットに両手を突っ込んで、ちら……っにこ……っと夏川に恥ずかしそうに笑いかけてきた。
「……おはよ、なっちゃん」
「おはよー、さくちゃん」
乱れた髪をイイコイイコしてやれば、にゃんこ系男子はぐるぐる喉を鳴らしそうな調子で、ご満悦状態。
あー朝っぱらから天国来ちゃった、冬毛天国だ、ここ。
「ねぇねぇ、なっちゃん」
「その荷物……どうしたの?」
「冬森ーこれ預かって!」
「俺はコインロッカーじゃねーぞ、夏川ぁ」
「風呂敷か……? 古風だな」
「冬森、一番後ろの席で目立たないでしょ? だからイスの後ろにでも置いといて、放課後になったら取りにくるね!」
「あ、もう行きやがった、よーし、見てやろっと」
「冬森、人の持ち物を勝手に盗み見るのはどうかと思う」
「ンだ、これ」
「……仮装大会でもするのか?」
その日の放課後。
「なっちゃんと放課後遊べるの、嬉しい」
「ねー放課後デートだねーあさちゃん」
「でも……どこ行くの……?」
「今にわかるよん、さくちゃん」
顔良しスタイル良しな年下パーカー男子を連れて上機嫌で闊歩する夏川。
上級生の背中に背負われた、昔風の泥棒が持っていそうな風呂敷包みがどうしても気になっていた亜砂と櫻井、しかし好きな先輩とセンター街をただ歩くことがとっても楽しくて、その内視界にも入らなくなった……は無理があるが、時に向けられる夏川の笑顔にわんにゃんときめいて、その内気にならなくなった。
センター街を抜けた。
生い茂る木々に出入り口が隠されているようなラブホが軒を連ねる、いかがわしい通りに出る。
初めて訪れるラブホ通りに亜砂と櫻井は興味津々にきょろきょろ。
「じゃ、ココ入ろ?」
何回か来たことのあるラブホ前で立ち止まった夏川、最上級ぶりっこ笑顔で最上級きょとん顔の年下二人に笑いかけた……。
「なっちゃん」
「……つけてみた」
風呂敷の中身はネット販売で購入したコスプレ衣装だった。
着替えを終えて浴室から戻ってきた亜砂と櫻井に、ベッドに寝そべって待っていた制服姿の夏川は目を輝かせる。
「ブカブカしてて、スース―する」
そう、あさちゃんのは確かにぶっかぶかの大き目わんこきぐるみなんだよね、全体的に茶色で手足の袖口は白、あ、萌え袖たまんない、もちろん顔出し、フード部分はわんちゃんの顔を模してあって、舌がぺろって出てる、んでお尻の尾っぽ、ちょーかわいー、むぎゅってしたい。
「これって女子がつけるもの……だよね?」
猫耳カチューシャ、肉球つきもこもこ手袋にロングなもこもこしっぽ、鈴つきチョーカー、全体的に黒に統一されていて、いやん、首傾げる度にチリンチリン言ってる、かわゆーい、でもベースの制服がちょっと固いかな。
「さくちゃん、シャツ脱いで?」
「えっ……寒いよ?」
「あーそだね、じゃあ脱がなくていーから、肩出して?」
「……こう?」
夏川の指示通り、櫻井は小首を傾げながらもボタンをいくつか外し、両肩が露出するようシャツを中途半端に脱いだ。
かんっぺきだ、コレ。
「二人ともおいでー?」
夏川がオイデオイデすれば二人は小走りにやってきてベッドに飛び乗り、夏川が頭をイイコイイコしてやればこれまた嬉しそうに鳴いた……ではなく、くすぐったそうに笑った。
やっばぁぁぁい、俺、グッジョブ過ぎ、なんなのこのコら、ポチたんミィちゃんの化身? ほんとはどうぶつの森に住んでるんじゃないの?
「はい、お手」と、夏川が手を差し出せば、そういう遊びなのかと解した亜砂はご丁寧に「わんっ」と本当に鳴いてお手をしてきた。
すると櫻井も負けじと、ちょこっと恥ずかしそうに、夏川の掌に肉球猫の手で「……にゃ」とポンしてきた。
なにこれ萌え死ぬ。
「かっかわぁいい、かわぁいいよぉ、二人ともよくできまちた、はい、ごほうび」
本当はよからぬ思惑あってチョコレートポッキーを持ってきていた夏川だが、二人のかわゆさにもうめろめろ、あさたんさくちゃんに痛いことなんてできないと、エロアイテムではなくお菓子として与えることにした。
亜砂と櫻井はポッキーをもごもごおいしそうに食べた。
すっかりデレ顔の夏川はそんな二人をエンドレスでイイコイイコしている。
「ポチたんミィちゃん、かぁいいねぇ、よちよち」
デレる余り本気で言い間違える始末だ。
最上級心の底からスマイルであほ幸せそうな夏川に亜砂と櫻井も、めろめろ、きゅんきゅん、しっぱなし。
夏川はポチたんミィちゃんにするように、愛しのわんにゃんが喜ぶところを、ちなみにポチたんはお腹、ミィちゃんは顎であり。
心を込めてそれぞれなでなでしまくった。
「わー! くっ、くすぐったい……っ」
「ふ……にゃ……っ」
「今から二人、人語禁止ね?」
「わ……わんっ……わぅぅ……!」
「にゃ……っぁぁ……にゃっにゃっ……にゃぅぅ……っ」
たまんなーい、このわんにゃん。
かわゆすぎ。
「……くぅぅぅんっ」
「……にゃん」
「あ、すごい、かわいい」
「なっちゃん……また好きになっちゃう……」
わんこきぐるみを纏って猫耳に鈴チョーカーをつけた夏川にめろきゅんでれな亜砂と櫻井。
「お手、してくれる?」
「……遊んでくれる?」
どきどきしながらお願いすれば、夏川、ちょっと後退りしてから助走をつけると。
「にゃわんっ!!」
チリンチリン言いながらぼふっと飛び込んできた夏川に……最早、萌え死んだ後輩男子なのだった。
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