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20-冬森が風邪っぴき天音にムラムラするゾ
本日は冬シーズン大イベントの一つであるメリークリスマスナイト。
冬森と天音は二人っきりでらぶらぶ過ごした……わけでもなかった。
「おい夏川ぁ、そのカルビ、天音の。勝手にとるんじゃねぇ」
「え~? 冬森、俺のために焼いてくれてたんじゃなかったの~? ぱくっ!」
「このバカッ、出せ、今すぐ出せッ」
「冬森。夏川が一度口にしたものだから俺はもういい、お腹もそこそこ膨れてきた」
「そういう冬森だって、タン塩、ほとんど食べましたよね?」
「配分考えて食えよな、コッチはソーセージか焼き野菜ばっか食べてんだぞ」
「ほんとかよ、天音? もう腹いっぱい? デザートの杏仁豆腐食う? きなこアイス食う?」
「聞いてんのか、冬森」
「春海の話を聞きなさい、冬森」
聖なる夜を祝うのもそこそこに春夏秋らと一緒に焼肉をがっついた冬森は、自宅へ帰らず、天音宅へ直行した。
「あーーー食ったーーー」
「クリスマスに焼肉なんて初めてだ」
「へぇ?」
「それに、あんなに大勢で」
「へぇ」
「クリスマスの街はああも賑わうんだな」
「そだな。イベントだし。みんなでワイワイ盛り上がんのも悪くねぇだろ」
「うん……、……冬森?」
「お前んちで。こんな風に。ソファでゴロゴロして、お前にくっついてんの、一番サイコー」
「……さっきまでみんなと騒がしい街にいたのが嘘みたいだ」
天音と冬森は笑ってお互いをぎゅっとした。
「…………ニンニクくさい、冬森」
「悪ぃ、肉にテンション上がってタレに入れ過ぎたわ」
短い冬休みはあっという間に過ぎ去った。
夜更かし遅起き三昧だった日々は呆気なく終了した。
「うぉ、コタツ!」
「本格的に寒くなってきたからな」
「うぉぉぉぉ」
無情にも三学期が開始されたばかりの放課後。
天音宅にお邪魔した冬森は、今まで見当たらなかったコタツが視界に入るなりスライディング気味にINした。
天音は手洗いうがいを済ませて、お湯を沸かし、お茶とおやつを用意してコタツにINした。
「あったけー」
「そうだな」
「……zzzz」
「冬森、寝るな、風邪を引く」
「んが」
吹き荒ぶ北風で窓がガタガタ鳴る、外はまだ明るい、しかし五時を過ぎればあっという間に暗くなる。
「帰んのめんどくせぇ」
「明日も学校だし、今日は帰った方がいい」
向かい側に座る天音にビシッと言われてブスッとした冬森だが。
天音が見ている先でもぞもぞと頭からコタツの中にINしていくと。
ノートパソコンの乗った天板をガタガタ言わせ、湯呑みをグラグラさせつつ、モグラみたいに熱溜まりのなかを進んで。
「にゃー」
天音の腕の中に再登場した。
「……あのな、お茶が零れそうだった、冬森」
「ごろごろ」
決して華奢ではない、173センチの褐色男子に甘えられて、天音は静かに笑う。
「……次の金曜日、泊まっていいから」
「ん」
コタツあったけー。
でも天音もあったけー。
「重いんだが、冬森」
「……zzzzz」
「……あのな」
ぽかぽかコタツでぬくぬくらぶらぶな眼鏡男子と褐色男子であったのだが。
「せんせー、天音が休みって、理由は? なんで?」
次の金曜日、天音は学校を休んだ。
「風邪だよ。確かに連絡してきたときの彼の声、掠れてたね。インフルエンザではないようだけど、みんなも体調管理には気を付けるように、特に冬森君」
朝のホームルーム、担任の村雨に笑顔でのほほん言われて窓際最後尾の冬森は仏頂面になった。
「は? なんで俺?」
「天音君と隣の席で仲がいいでしょう。むやみやたらにお家に押しかけないようにね、空気感染はもちろん接触感染で伝染るかもしれないから」
「はぁ」
要は、一緒にいるなキスするなセックスするな。
まぁ、担任の忠告をあほ冬森が守るわけもなく。
「あれ、冬森君は?」
「早退しましたー」
三限目が終わって教室からトンズラこいた冬森。
もちろん行き先は天音のお宅だった。
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