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ドアの向こうにいたのは黒いパジャマにグレーのパーカーを羽織った風邪っぴき天音だった。 掠れた声。 いつにもまして白々とした肌。 眼鏡越しの弱った眼差し。 見るからに病人している。 いつにもまして影が薄いような。 「お前、今にも消えそーなんだけど」 「病院には行った」 「薬飲んだのかよ?」 「うん」 ワンルームへお邪魔し、いつもと変わらず片づけられている部屋に感心し、セーター+ブレザー+マフラーだった冬森はブレザー+マフラーを隅っこにぐちゃっと畳み、買ってきたものをテーブルにどさっと下ろした。 「……学校、さぼったのか」 「さぼりじゃねーもん、看病だもーん」 「……何か買ってきたのか?」 「お前が食えそーなもん。ネットでざっと調べて。今日何か食った?」 「……食パン一枚だけ」 「バナナ食う?」 「……今はちょっと」 天音、ふらふらしながら、冬森がぐちゃっと畳んでいたブレザー+マフラーを畳み直そうとしている、冬森は「いーからいーから」とマメなクラスメートをベッドへ追いやった。 「寝とけ」 「……買ってきてくれたのに、すまない、食べれなくて」 「へ? 食いたくなったら食えば?」 「……うん……」 こどもみてーなちっちゃな声で「うん」だって。 隙ありすぎンだろ。 無防備病人め なんかモロ弱ってる天音、なんだろな、うん、なんか、あれだ。 えろいな。 あれ、鬼畜ですか、バカですか、俺。 「熱は?」 「今朝はかったら……三十八度過ぎ、だった」 パーカーを脱ぐとベッドに横たわり、眼鏡を外し、目を閉じた天音は毛布に包まった。 いつになくサラサラな黒髪がさらりと顔にかかった。 具合が悪くて落ち着かないのか、寝返りを頻繁に繰り返す。 パーカーをかけ直してやれば薄目を開けて「ありがとう」と律儀に礼を、だが顔色が悪い、紙みたいだ。 鼻まで隠れるほどマスクをきちんと装備した冬森はその額に手をあてがった。 「そんな熱くはねーけど、今、ムカムカするか?」 「……うん……」

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