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「ムカムカすんなら吐いた方がいーんじゃね?」 「……そうだな……吐き癖があるから」 「そんな癖あんのかよ? 知んなかった」 「風邪を引くと、胃腸に来て……あれ、逆かな……胃腸に来て、風邪を引いて……げほ」 洗面器持ってきた方がいーかな、そう冬森が考えていたら天音はふらりと立ち上がった。 「……吐いてくる」 トイレに立った天音がなかなか戻ってこないので、ベッドにかけられていたパーカーを引っ掴み、冬森はドアをノックしてみた。 「天音ー、だいじょーぶか?」 返事はない。 「開けるぞ」 そう一声かけてからドアを開いてみた。 ムカムカするがまだ嘔吐には至っていないようだ、カバーがとりつけられた洋式トイレは蓋が閉じられた状態で、天音は苦しそうにそこにもたれていた。 冬森はすっかり冷えてしまった体にパーカーをかけ、背後に座り込んで、青白い顔を覗き込んだ。 「大丈夫?」 「……」 天音は素直に首を左右に振った。 「……冬森、いいよ、部屋に」 「吐けねーの?」 「……いや、多分、もう少しで吐く」 喉に広がる窒息にも似た感覚。 「げほ……ッ」 弱ってる、すげー弱ってる、すげーつらそう。 それなのに、俺、むらむらしてる。 ほんとにあほだわ、俺。 自分より上背はあるが体力は劣る天音の咳込む姿に冬森はムラムラを持て余し、紛らわせようと、震える天音の背中をゆっくりゆっくり上下に撫でた。 「ふゆ、もり……ッ、ゲホゲホッ……ッはぁ……ッありが、とう……」 こんなときでも律儀に礼をしてくる、えづき眼鏡男子に、やっぱりむらむらムラムラァッッとしてしまう、えろあほ褐色男子。 「……別にいいって……ばか……あ」 天音は自分の口内に長い指を二本突っ込んだ。 喉に直に刺激を送り込み、早く吐き気から解放されようと、込み上げてくるモノを外へ急かした。 「げほげほッ……う……ッ……」 指を突っ込んで苦しげにえづく天音にどうしてもむらむらムラムラァッッが止まらないあほあほ冬森。 天音、きつそうなのに、苦しんでんのに。 俺、あほで悪ぃ、ごめんな、天音。 そうして天音はしばし気管を苛んでいた息苦しさからやっと脱することができた。 「楽ンなったか?」 「……大分」 フラフラと立ち上がった天音は、喉にこびりつく焼けるような不快感を拭うためウガイをし、ハンドソープで綺麗に両手を洗って、またフラフラとベッドへ戻った。 それから間もなくして聞こえてきた寝息。 ベッドに両腕を乗せ、ぐっすり眠る天音を見て一安心した冬森は。 つられてガチで寝てしまった……。

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