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「俺より身長あんだから弱音吐かない」
甘えスイッチが入ったえろあほ冬森は天音にくっついていちゃつきたがった。
両親は飲食店を経営しており、普段から家を空けることは多々あった、しかし弟が階下にいるというこの状況で。
「シてーな」
自制心に疎いえろあほ男子はあっけらかんと求める。
真面目な天音はもちろん自制を強いる。
「駄目だ」
「なんで」
「ご家族がいるだろう」
「無視していいって」
「冬森」
「あーあ。これだから天音サンは」
向かい合って天音に乗っかったままの冬森は笑った。
「じゃー、ちゅーだけ」
「……」
「ちゅーくらいよくね」
「……」
「シよっと」
無言でいる天音の肩に両腕を絡ませて冬森は眼鏡男子にがっつりキスを……。
がちゃっ!
「ピザじゃなくてラーメン、俺、ラーメン定食食べたーい」
キスする一秒前で冬森と天音はフリーズした。
二人の視線の先にいるのは弟の周太ではなく、ドアノブを握ってニヤニヤしている、兄の胡太 だった。
「は? 何でクソコタいんだよ?」
「んー? 大学春休み入ったから?」
「春休みぃ? まだ二月で冬で寒ぃじゃねぇか、勝手にフライングすんな」
胡太の後ろに周太もちゃっかり控えている、長男と末っ子、二人揃って廊下で盗み聞きしていたようだ。
「どーもはじめまして、コイツの兄のクソコタでーす」
冬森にも負けず劣らずのヤンチャラ系大学生、胡太。
浅黒くなく色白の肌、さらさら金髪にピンクのメッシュ入り、両耳ピアス、さも遊んでいそ~なハデハデ外見ぶり。
それでいて私大の医学部に在籍中、そのギャップがまた女子には好評なようで。
現在、四股中のゲスな大学生、だ。
次男の冬森に最も悪影響を与えた主犯格と言っても過言ではなかった。
そんなド不肖の兄・胡太にへらへら挨拶された天音は。
「どうもはじめまして、クラスメートの天音と言います」
冬森をお膝に乗っけたまま律儀に一礼したのだった。
結局、夜は胡太のリクエスト通りラーメンの出前をとった。
「ねー、天音クン、さっきの様子だともう弟とシちゃってんだよね?」
「クソコタ、シネコタ」
「コイツさ、ある意味? 色んなトコ? ものすごーく緩々だけど平気? 大丈夫?」
「うるせ、天音に栓してもらってっから大丈夫なんだよ、ブスコタ」
「兄貴、ラー油ちょーだい」
「ん」
「ねー、天音クン、ビール飲む? あ、いらない? 未成年だから? 俺もギリ未成年だけどねー」
「ぶはっっ! これラー油じゃない! お酢だよ!」
「ぷ。周太ウケる」
「ねー、天音クン、兄弟丼とか興味ない? 俺、天音クンだったら後ろ捧げてもいーかも」
「お前帰れよ、全裸で歩いて帰れよ、さっきから天音天音呼び過ぎなんだよ、ゲスコタ」
うるせー食卓で一人だけ物静かに食事を続ける天音は、そっと、眉根を寄せる。
親子丼は知っているが、兄弟丼とは何だろう、何の具材が入っているんだろう。
一人だけ真面目な天音クンなのだった。
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