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31-パラレル番外編-ショタ冬森が

雨降りな土曜日の午後、高校生の天音はバスを利用して図書館へ出かけた。 そこで彼は彼に出会った。 建物自体老朽化が進んでいるが雰囲気のある館内を歩き回り、興味を引かれた書物をぱらぱら捲って、棚に戻し、また当てもなく暖房の利いた二階奥を行ったり来たりしていたら。 「あーくそ」 182センチの眼鏡男子より明らかに小さい褐色男子が背伸びして頭上の本を取ろうとしていた。 フードにファーのついたカーキ色のモッズコート、ぴたっとした細身のジーンズ、白コンバース。 真っ黒尽くしな私服の高校生よりおしゃれだ。 天音は上段から本をとるのに苦心している彼の背後へすっと歩み寄った。 後ちょっとで褐色の指先が届きそうになっている図鑑を骨張った長い五指で難なく抜き取る。 特に言葉を添えるでもなく自分より小さな彼に手渡す。 受け取った彼はじーーーーーっと天音の顔を見上げて言った。 「どーも」 普通なら「ありがとう」だろう、小生意気なガキのようだ。 「それ、カラスのコスプレか何か?」 どうにもクソ生意気なガキらしい。 「いいや、違う」 「カー」 特に不快そうにするでもない天音が淡々と答えれば初対面で親切にしてくれた相手に対して鳴き真似一つ、腹の立つガキだ。 ずっとまじまじと見上げられて天音はちょっと迷った。 もう行ってもいいのだろうか。 まだ話したそうに見えるのは俺の気のせい、だろうか。 「冬森っ!!」 棚と棚の狭間で天音が彼と向かい合っていたら一人の男子児童が現れた、その後に続いて二人、ひょこっと顔を覗かせる。 「冬森、こんなとこいたのか」 「早く発表文、まとめますよ、昨日みたいにさぼったら村雨先生に報告します」 「冬森ぃ、かくれんぼしよー!」 友達に手招きされた冬森は。 手渡されたばかりの図鑑を天音に押しつけて彼等の元へ駆け寄り、その場を去って行った。 天音はその図鑑をパラリ、慈しむような手つきでページを開いてみた……。 「カー」 二階突き当たりの閲覧コーナーにて。 生き物図鑑を読んでいた天音が驚いて振り返れば真後ろに冬森が立っていた。 「君、さっきの」 「カア」 完全におちょくっているとしか思えない、普通の人間ならばイラッとくる態度に、やはり不快になるでもない穏和な性格の天音は。 「この本、とても興味深くて面白い」 「カア?」 「写真も一枚一枚、綺麗で。フルカラーで読みやすい」 「カー」 イチョウ並木が見える窓際の長テーブル席、端っこに座っていた天音の隣のイスを乱暴に引いて冬森は腰かけた。 「あんた大学生」 語尾が下がり気味で質問されているのか一瞬わからなかった天音。 「大学生?」 「あ。いいや。高校生だ」 「彼女いんの」 「いない」 「名前なに」 「天音」 「はらへった」 「え?」 全く脈絡のない言葉が出てきて思わず天音が聞き返せば冬森は真顔で「はらへった」を繰り返した。 「館内は飲食禁止だから。外に出て何か食べに行ったらいい」 「なんか食わせて、天音」 「……」

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