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26-パラレル番外編-冬森先生が
美化委員をしている3ーDの天音は見てしまった。
「うはっぁぁぁぁっぎもぢぃっぎもぢぃぃっ!」
「冬森先生は本当かわいいね」
「んぁぁああぁぁッ、奥゛ッ、ゴリゴリぃッ、さッれッでッるッ!」
「スケベなお尻、こんなに締まらせて、スケベなペニス、こんなにプルプルさせて」
体育館棟に並ぶロッカールームの一室で。
3D担任である村雨と体育教師の冬森がセックスしていた。
上下ほぼ服を着たままの村雨に下半身すっぽんぽんである冬森の頑丈そうな褐色足が片方だけ絡みついている。
肌と肌がぶつかり合って生々しい音を立てている。
夕方五時過ぎ、テストを控えて部活動は休み、人気のない薄闇に動物じみた教師二人の息遣いがやたら大きく聞こえるような。
「……あ?」
ロッカーに背中を預けて村雨と立ち位に励んでいた冬森だが。
向かい合った村雨の肩越し、細く開かれたドアの向こうで立ち尽くしていた天音と目が合い、ふやけていた双眸をパチパチ瞬かせた。
冬森と目が合った瞬間、天音は我に返った。
手にしていた回収対象の古いモップを抱えてその場から出来る限り速やかに離れたのだった……。
「天音、話あっから昼休み体育館来い」
翌日の午前中、体育の授業で冬森に呼び出しを喰らった天音。
言われた通り昼休みに体育科教員室へ向かうと「こっち来い」と連れて行かれた先は。
『ぎもぢぃっぎもぢぃぃっ!』
昨日の放課後、冬森が村雨に喘がされていたロッカールームだった。
「見ちゃったなぁ、天音?」
二十三歳、この学校で一番若い先生、173センチ。
十代男子も参考になるスポーツファッションをすんなり着こなし、砕けた言葉遣いで話しやすい、生徒に人気のある褐色教師。
「俺は……別に誰にも言いません」
182センチで黒髪の黒縁眼鏡、ネクタイをちゃんと締めて黒セーターを着た天音、読書好き、童貞男子。
「エロ」というワードすら一度だって検索したことがない天音はあんな場面を生まれて初めて鮮明に目の当たりにした。
あれがセックスなんだ。
本に出てくることはあったけれど文章と現実上では印象が全く違った。
「俺と村雨先生はオトナの関係ってやつ? お互い性処理係っつーかさ」
ページの上ではもっと尊くて崇高で神聖な儀式のように書かれていたけれど。
「目撃したの、物分りいいお前でよかったわ、天音」
冬森先生はただ……いやらしかった。
尊くもないし、崇高でもないし、神聖さの欠片なんか一つもなかった。
言い方は悪いけれど淫乱そのものだった。
「ずっと顔赤いのな、お前」
運動部特有の匂いが染みついたロッカールームで冬森と二人きりになり、脳裏に刻まれた体育教師の媚態が否応なしに蘇って、目線のやり場に迷っていた天音はびっくりした。
「壁ドン」
「……やめてください」
「一度してみたかったんだよなー」
「俺を練習台にしないでください」
天音の方が背は高いものの痩躯の生徒と比べれば体の厚みや迫力は年上の体育教師が勝っていた。
「あ。お前って童貞なの?」
「……」
「え。じゃあ一度も彼女いたことねーの? キスもまだ?」
「まだ……です」
「お前、なんかかわいーのな、天音」
俺のどこが可愛いんだろう。
「学校卒業する前に俺で童貞卒業させてやろーか」
どうしてそんなことを言うんだろう。
どうして……こんなに熱いんだろう。
うまく息ができなくて酸素の回らない頭は深い霧に覆われたみたいにぼんやりして。
熱流に溺れているみたいだ。
ロッカーに片手を突いて至近距離で自分を見上げてくる冬森を天音は見下ろした。
「え」
初めての熱に全身を蝕まれて密かに戸惑って混乱して。
纏まりのない感情が肌の下を迷走して行き場を求めた末に。
涙と化して紅葉の色に染まった頬へ静かに溢れた。
「もう行ってもいいですか、冬森先生」
「天音」
「昼休みが終わってしまうので。すみません。失礼します」
珍しく動揺していた冬森の元からすっと離れ、天音は、ロッカールームを後にした。
体育館棟を出て本棟へ近づくにつれて昼休みの喧騒が鼓膜へ徐々に押し寄せてくる。
慣れたはずのざわめきが何故だかやたら懐かしく恋しく感じられた……。
その日の夜のことだった。
「よー天音、こんばんはー」
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