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27-冬森がもう夏真っ只中だゾ
期末テストが終了して高校生最後の夏休みを控えた教室。
たいていの生徒が受験勉強はやれどうするだの、やれ息抜きの花火大会だの、やれ彼女とデートだの、まぁまぁはしゃいでいる中で。
一人、いつもと全く変わらない生徒がいた。
騒がしい休み時間の教室、窓際の席で文庫本を広げ、黙々と読書に集中している。
黒縁眼鏡に癖のない真っ黒髪。
涼しげ純和風な一重まなこ。
七月に長袖シャツを着て腕捲りしている。
彼の名前は。
「なー天音ぇ」
長い指でページを捲りかけていた天音は手を止め、隣で寝ていると思っていたクラスメートの方を見た。
机にだらしなく突っ伏して背中がチラリと覗いている褐色生徒。
さも遊び慣れていそうな雰囲気。
ネクタイがこれでもかと緩められている。
彼の名前は。
「なんだ、冬森」
「ジャンケンしよ」
「は?」
「ハイ、最初はグー、ジャンケン」
「ッ……」
「ポン」
机に怠そうに突っ伏したままの冬森に突然呼びかけられたかと思えば意味不明なジャンケンに誘われた。
呼びかけにつられて天音がパーを出せばチョキの冬森に負けた。
「ハイ、お前、負け」
来週の海行き決定な。
「海……?」
「んじゃ、おやすみー」
冬森は得意げに手をヒラヒラさせると完全に寝る姿勢に入った。
天音は片手をパーにしたまましばし硬直。
冬森と天音、二人は付き合っている。
真夏の太陽に煌めく波飛沫。
はしゃぐ水着女子に水着男子。
大混雑までいかない広い人工砂浜で思い思いに海水浴を楽しむ人々。
たいていの者が笑顔全開でハイテンションでいる中、一人、恐ろしいくらいの水平線テンションを保つ者がいた。
天音だ。
ビーチパラソルの下で黙々と本を読んでいる。
周囲の笑い声など見事にスル―し、腕捲りパーカー、ゴザの上に座り込んで読書に集中していた。
唯一、普段はたいてい隠されているふくらはぎがハーパンで外気に曝されているのが新鮮なくらいか。
「天音、泳がねーの?」
「海に入るだけでも気持ちいいですよ」
冬森と中学からの友達である春海が髪から海水を滴らせ、天音と同じく眼鏡で腰から下だけ濡らした秋村がやってきた。
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