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29-冬森が天音と初ラブホだゾ

「コチラがいわゆるラブホというやつです、天音サン」 冬森は以前にも誰かさんと使ったことがあるラブホの一室へ天音を連れてきた。 「思っていたよりもシンプルなんだな」 放課後だった。 私服に着替えた天音は最低限のスペースとなるリーズナブルなお部屋を繁々と見回している。 天音と同様、私服姿の冬森はそんな後ろ姿をじーーーっと見つめている。 『今から行こう、冬森』 ラブホ行きを決めたのは、えろあほ男子の冬森ではなく、天音であった。 ことの発端は約二時間前に遡る。 「冬休み、天音と冬森、どこか行くのか?」 放課後の教室でいつものようにダラダラしていた冬森、付き合う天音、そして受験勉強に励んでいた春海と秋村。 自分なりの第一志望がそれぞれ本決まりになり、予備校や塾に通う生徒もいれば独自勉強に打ち込む生徒もいたり、就職先を探す生徒もいたり、ふわふわしている生徒もいたり。 三年生の日々はいつにない駆け足で薄情に過ぎ去って行った。 「特に予定ナシ」 これまでと全く変わらないマイペースな冬森は、引っ繰り返りそうなくらいイスの背もたれに踏ん反り返って春海に答えた。 「でもクリスマスは天音んちで過ごすゾ」 「……初耳なんだが、冬森」 もっぱら聞き手でいたはずの天音が思わず口を開けば冬森は「今決めたし」と大胆に背伸びしながら返事をした。 「ツリー飾って窓に折り紙の輪っかぶら下げてケンチキにホールケーキ」 「僕達もそうしましょう、春海」 「そんなCM並みに完璧にできるかよ、冬森の冗談に決まってるだろ、秋村」 「でも、天音、メモをとっていますよ」 「ツリー……折り紙の輪っか……ケンチキ……ホールケーキ……か」 和気藹々していたところへ。 生物基礎の課外授業を終えた和やかムードクラッシャーなる夏川がきなこ豆乳パック片手に3Dの教室を訪れた。 「終わったぁ~、実験室寒すぎて居眠りしちゃいそうだったぁ、冬森ぃ」 迷わず冬森のお膝にまっしぐら、しかも向かい合った格好で着席。 メモをとっていた天音の長い指がぴたりと止まった。

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