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30-3
期末テストが終了して何かと多忙な冬休みを控え、多くの生徒が気もそぞろな教室、残り少ない今年の授業が開始される。
「えーーーーと」
担任である村雨の授業にて、問いかけられた冬森が言い淀んでいると、席をくっつけた天音がすかさず回答した。
「俺が忘れました、先生」
「えぇぇえ? 天音君が?」
「すみません」
「さっきも具合が悪くて冬森君に付き添ってもらったみたいだし、しかも君が教科書忘れてくるなんて、相当体調悪いんじゃない? 帰ってもいいよ? 帰る?」
「帰りません。もう大丈夫です」
村雨は残念そうに肩を竦めて朝一の授業を開始した。
冬森はすぐ隣に座る天音の息遣いを空気伝いに感じつつ片頬杖を突く。
いやーまさかな。
この俺がヤッてイかないなんてな。
自分でも驚きだわ。
まー、あの状況なら当然か。
だって天音が個室入んねぇから。
トイレの前、何人も通ったし、誰か来たらマジヤベェって、気が気じゃなかったから。
あんま集中できなかった。
まー、すぐ終わったけど。
「冬森」
授業中、自分から滅多に話しかけてこない天音に呼びかけられて冬森は驚いた。
すぐ隣を見ればノートを覗き込んだまま眼鏡男子は言う。
「今日一日の授業の教科書、全部忘れたんだ」
「はっ?」
「だから今日一日、ずっと見せてもらえるか」
「俺もなんか忘れてっかもしんねぇけど」
「すまない」
癖のないまっくろ髪をさらりと垂らして表情を隠し気味な天音に冬森は尋ねてみた。
「お前、どしたの。昨日久々にケツ使って熱でも出た?」
「……大丈夫だよ、冬森」
「おしゃべりするなら席離してね、天音君」
「サーセン」
「天音君に注意してるんだよー?」
「すみません」
ほんと、どーしたんだ、天音。
俺のえろあほ病がうつっちゃったかなー……じゃなくて。
嫉妬、か。
夏川が余計なことばっか言いやがるから毒されてんのか。
嬉しいっちゃ嬉しーけど、さ。
嫉妬なんかしなくていーのに。
今、俺、お前だけなのに。
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