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「俺が天音のこと忘れんの?」 「そうだよ」 外は寒い、コタツの中はあったかい。 些細なしあわせ。 隣に天音がいる。 とてもしあわせ。 ありのまま単純にそう感じる小さな冬森は。 「やっぱ天音は俺のことナメてんな」 じーーーーーっと天音を見上げてそう呟いた冬森はマグカップをコタツテーブルにコトンと戻した。 「なー天音」 「うん?」 「キスしてい?」 黒セーターをぎゅうっと握りしめた手。 「……」 何も言えずに硬直している天音を見つめ、褐色頬をぽかぽかさせ、冬森はその場で膝立ちになった。 モッズコートがカサカサと衣擦れの音を立てる。 静かな部屋にいやに大きく響いて聞こえた。 「あ……これだと、ぶつかる」 そう言って、顔を斜めに傾けて、静止していた眼鏡男子の唇にぎこちなく唇を押し当てる。 やんわり触れ合った微熱。 目を閉じることも忘れていた天音の視界には目を閉じた冬森の瞼が写り込んでいた。 ガジ 冬森は天音の下唇に浅く噛みついた。 ガジガジ、小動物みたいに緩く歯を立ててきた。 どこか現実味のないふわふわしていた感触が急に鮮明さを帯びて、天音は、やっと赤面した。 「ッ……ッ……」 唇伝いに天音の動揺を感じ取った冬森はうっすら目を開け、レンズ越しに純和風まなこと視線を繋げた。 次の瞬間、ぐっと力を込めて油断していた彼を押し倒した。 長身だが痩せ型の男子高校生に跨って、どえらく生意気そうなふてぶてしい目で、まっくろ髪が乱れて眼鏡までずれた天音を睨んだ。 「ガキだからって甘く見んじゃねーぞ。どあほ眼鏡」 ガジガジされたばかりの唇が仄かに疼いている。 心臓が一段とうるさく脈打っている。 真上に乗っかった冬森の重みがやたら体底にズッシリ響いてくるような。 「天音のこと好きだもん。んな簡単に忘れねーもん。中学進んだからって、天音以上に夢中になれるモン、絶対見つかんねーもん」 冬森は顔面まっかにして天音に抱きついた。 そして、やっぱりしあわせだと、単純にそう思った。 発達途上にある体の方も。 大好きな天音と密着して、温もりを分かち合って、肌の内側まで熱が行き渡って。 「あ」 どうしたらいいのかと逡巡していた天音の真上で冬森は。 「ちんちん……たった」 え? 「天音、俺、ちんちん、たっちゃった」 夢精の経験はある六年生の冬森、でも、目覚めていてこうなるのは初めてのことだった。 「どうしよ……天音……?」 普段とは違う甘えた声色で呼びかけられた。 胸に埋めていた顔をもぞりと上げ、潤んだ双眸で見つめてきた冬森に、天音は柄にもなくゴクリしてしまう。 いやいやいやいや、冷静に、とにかく冬森を傷つけないよう、適切な対処法を……。 「冬森、トイレで、トイレで処理してきていいから」 天音に跨ったままモジモジしていた冬森はキョトンした。 「どうやんの……?」 え。 「俺、わかんねぇ……天音ぇ、どーすればいーの……? 教えて……?」

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