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昼下がり、空一面を覆う分厚い灰色の雲。
ビュービュー吹き荒ぶ風に乗ってちらつく雪。
「う~~さっぶ……」
フードをかぶってポケットに両手を突っ込んで、恐ろしいくらいの早歩きで、時に居ても立ってもいられずダッシュになって冬森は天音宅を目指した。
スーパーや郵便局、ドラッグストアにコンビニなどが近辺に揃う、交通量の多い表通りから一本入った裏道に建つ一人暮らし向け物件。
二階建てのアパートを囲う植え込み前で冬森は不意に足を止めた。
今、正に意中の人物が吹き曝しの通路へ出てこようとしているではないか。
ンだよ、天音、相変わらず薄着しやがって。
風邪じゃねーのかよ。
しかも他に誰か……部屋にいんのか……?
通路から部屋に向かって何やら話しかけている天音の姿が視界に入り、冬森は、自分の心臓がぶわりと逆立ったような気がした。
コイツに限ってありえねー。
そう思ってたけど。
ま、まさか、ガチで浮気とか。
ヤベェッ、裏切られる準備してねぇッ。
俺のメンタル今完全無防備ッ、モロにダメージ食らうッ、
「そろそろタクシーが来る、お父さんお母さん」
浮気現場に居合わせたかもと立ち竦んでいた冬森はハッとした。
天音に続いて彼の部屋から出てきた、さも品のよさそうな中年の男女に釘づけになった。
「……冬森か?」
階段を下りてきた天音は、植え込み前で突っ立っている冬森に気づいて、ほんの少しびっくりした。
長身、黒髪、黒縁眼鏡、見るからに文系のルックスに純和風一重まなこ。
夏場に長袖シャツを着用しているというのに肝心の冬場では何故だか割と薄着。
猫好きだけど猫アレルギー。
冬森のクラスメート兼彼氏だ。
「天音、えっと」
ふてぶてしいくらいのドヤ顔全開でいることが多い冬森が珍しく口ごもれば、天音は、静かに笑った。
それぞれボストンバッグを手にして背後へやってきた両親に何ら躊躇するでもなく紹介した。
「お父さん、お母さん。同じクラスの冬森だ」
「ど、どーも、デス」
「これから先ずっと一緒にいたい、俺が一番大切に思ってる同級生だ」
呆気にとられた冬森はさらにかたまった……。
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