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32-3
天音の両親を乗せたタクシーは空港を目指して走り去っていった。
フードを目深にかぶったままの冬森はチラリと隣に目をやる。
角を曲がって視界から消え去るまでタクシーを見送る天音の横顔を見つめた。
なんで連絡くんねーの。
心配してたんだぞ。
どっこにも遊び行かねーでウチでダラダラ腐ってたんだかんな。
喉元まで込み上げてきた不平不満をぐっと呑み込んで冬森は天音に尋ねた。
「かーちゃんの飯食えたのかよ?」
寒空から雪がちらつく中、襟シャツに黒セーター、特に何も羽織っていない天音は冬森を見下ろした。
「ああ。食べたよ、冬森」
「そっか。よかったな」
「ありがとう」
「つーか俺、サイアク、フードかぶったままだったわ。ガラ悪ぃって思われたかも」
今頃になってフードを外して不慣れな緊張感にふーーーーっと息をついた冬森に天音は首を左右に振ってみせた。
直球発言に面食らってカッカしていた褐色頬を長い指がそっとなぞる。
年が明けて初めて会う冬森のぬくもりを切に感じ取る。
「冬森」
なんだよ、呼ぶだけって。
犬かよ猫かよ、ペットかよ、俺。
そんで舞い上がってる俺、やっぱペットかよ、天音に懐きスギかよ。
「にゃー」
「? どうして鳴いた?」
「寒ぃ。帰んのめんどくせぇ。今日泊まっからな」
北風に髪を乱した天音は頷いた。
階段を一段飛ばしで上って、鍵をかけていなかった部屋へ住人よりも先に入った冬森の後を、急がない歩調で追いかけた。
「にゃー」
中に入ればすぐさま抱きつかれた。
玄関で待ち伏せしていた、身長173センチで華奢じゃない体つき、室内飼育が可能な愛玩動物というより肉食ネコ科じみた褐色男子に襲われ……いや、ここぞとばかりに堂々と甘えられた。
「お前の体、うっす」
背中に両腕をしっかり回して眼鏡男子の厚みを再確認しつつ首筋に頭をごりごり擦りつける。
「寒ぃ、天音ー」
「コタツに入ればいい」
「はぁ~……マジでうっす……はぁ~……骨ごりごり」
「それは貶してるのか、冬森」
「違ぇ。寒ぃ」
「そんなに寒いならお風呂でも入れるか」
冬森はガバリと顔を上げた。
自分より肉付きが乏しい愛しい体の感触を全身で堪能しながら「もちろんお前もいっしょだよな?」と、先程までのマナーモードはどこへやら、発情甘えたモード発動、性的にニンマリ笑いかけてきた。
ほんとはそのつもりじゃなかった天音だが。
ぎゅうぎゅう全力抱擁され、シャツの襟をガジガジ噛まれて、動物じみた冬森に愛しさがぶわりと華を咲かせて……頷いた。
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