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34-春海が秋村が

冬休み終了目前、春海と秋村は図書館の自習コーナーでセンター試験の過去問を午前中せっせと解いていた。 「そろそろ昼飯行くか」 「そうですね」 共に国公立大を第一希望に目指す二人。 「脳が糖分欲してる気がする」 将来、美術館や博物館の広報に就きたい春海は経済学部でコミュニケーション学を学びたく。 「僕の脳はいつでも春海を欲しています」 薬剤師になりたい秋村は難関薬学部入試突破に向け、日々勉強に明け暮れ、いつにもまして春海依存症を発しているようだった。 「なぁ、今更な話するけどさ、秋村」 「春海が僕のことを欲しているのは重々承知です」 「違う。冬森と天音のことだよ」 「二人がどうかしましたか」 昼時で賑わうお好み焼き屋、ねぎチーズにおもちをトッピングした春海は鉄板上で器用に生地を引っ繰り返した。 「あの二人の進路について、お前、何か知ってるか?」 シーフードミックスの生地を未だ丁寧にまぜまぜしている秋村は首を左右に振る。 「冬森が受験しないのは一目瞭然だろ」 「そうですね、定期テストの勉強のみで特に大学入試に備えている様子は見られません」 「やっぱ親の店継ぐのかな」 「冬森の両親は飲食店経営でしたね。どんなお店なんですか?」 「さぁ。冬森、特に何も言わねぇから」 「天音はどうなんでしょうね」 「それだよ。天音は頭よくて学年でも成績上位だし、でも、大体いつも本ばっかり読んでたような気が」 「放課後は決まってだらけている冬森の隣で、物静かに話を聞いているか、読書に集中しているか、夏川にいじられているか」 「お前まだ焼かないの」 「隅々まできちんと混ぜ込みたいんです」 春海と秋村はそれぞれ別の大学を目指していた。 もしも第一希望への入学が叶えば、地元を離れ、二人も離れ離れになる。 「あの冬森がな」 食後の抹茶パフェをぱくつきながら春海はふと笑った。 「まさかあの冬森が、ですね」 お上品に切り分けたお好み焼きを口にして秋村も微笑む。 ヤリチンくんビッチちゃん男子だったえろあほ冬森を一途男子へ生まれ変わらせた天音を称賛しつつ、二人は店を出、また図書館へ戻って過去問と大いに格闘した。 やがて閉館時間を迎えて外に出ればとっぷり日が暮れて倍増しになった寒さ。 アウターのポケットに両手を突っ込んでブルリと肩を震わせた春海に秋村は端整な顔を綻ばせた。 「春海、どうぞ」 自分のマフラーを背後から巻いてやる。 板についた紳士的な振舞に、今更恥ずかしがるのも億劫で、小柄な春海は大人しく巻かれてやった。 「ねぇ、春海、今夜は瑞絵さん遅いんです」 しかし母子家庭である秋村に唯一の家族の帰りが遅いと言われると仏頂面になった。 「秋村、言っただろ、受験勉強中はシねぇって」 「たまには息抜きも必要だと思います」 「駄目。んなこと言って、一回許したら歯止めがきかなくなる」 「春海は平気なんですか、もう彼是一ヶ月はおあずけ状態なんですが」 「お互い大学受かったら、もっと続くぞ、おあずけ」 市街地の外れにある図書館を出、裏道の階段を春海と並んで下りていた秋村はわざわざ立ち止まって、シュンとした。 「散歩大好きな犬じゃあるまいし」 「少しでも長く春海と一緒にいられます」 「その分、第一希望の夢が遠退くぞ」 「……」 「動けよ、秋村」 「……くしゅん!」 クシャミした秋村に春海は苦笑した。 二段、階段を逆戻りすると、自分にかけられていたマフラーを秋村の首に無造作に巻いて背中を押した。 「危ないです、春海」 「お前が動かないからだろ」 「並んで歩いてください」 「なぁ、どっちも大学受かったら二人で卒業旅行行くか」 秋村は振り返った。 「ぱーーーっと、記念に」 外灯の元、春海の笑顔を目の当たりにして何度も何度も頷いた。 「秋村、ほんとに犬みたいだぞ」 離れ離れになるのは淋しい。 でも、たとえ短い歩幅でも、大切な人が夢見る未来に少しづつ近づくことができるのなら。 全力で応援したい。 自分も一緒に頑張れるから。 「知りませんでしたか、僕は春海の犬です、春海だけの」 丁度いい高さにあった春海の唇にキスして秋村は見えない尻尾をさも嬉しげに振るのだった。

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