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36-冬森が卒業式だゾ

「くそだりぃ」 天音は思わず小さな笑みを零した。 隣席でこれまでと同じようにだるそ~に机に突っ伏している冬森。 周囲のクラスメートがいつにないハイテンションぶりで騒いだりフライング気味に泣いているのに対し、恐ろしくいつも通り、しまいには「うっせぇ」と愚痴る始末。 まぁ隣席の天音も文庫本を片手に携えており、何も今日という日に読書しなくても、な~んて調子ではあったのだが。 「卒業式とか一番いらねぇ行事じゃね」 「そうなのか?」 「だって校長や理事長がだらだら話したり、卒業生代表とか在校生代表がだらだら話したり、くっそだりぃ、てっとり早く筒もらって帰りてぇ」 「筒……卒業証書のことか」 「そーそー、そつぎょーしょうしょう」 二月下旬、晴天の本日、冬森達は高校を卒業する。 「卒業式さぼろーぜ、天音」 卒業する晴れの日でありながら不謹慎発言をかます冬森に天音は頷いてみせた。 「お。真面目な天音サンが珍し」 全開ブレザーでネクタイゆるゆるな褐色男子は、明日、遠方の温泉地に二年間の武者修行へ赴く。 「あそこのパンを食べに行こう」 地元の私大が実施するAO入試を選択し、文学部の一次選考を九月に受け、このクラスで最も早く大学合格が決まっていた天音は、この街に残る。 「マヨ系全制覇してぇ」 「冬森、もっと重たくなる」 「だーかーらー、デブ扱いすんな」 「パンを食べ終わったらどうしようか」 「お前んちでだらだらする」 「冬森、すぐに寝そうだ」 「お前に晩飯作ってやるよ」 「冬森が俺に?」 「おかゆ」 「どうしておかゆなんだろう」 「眠ぃ」 ノートや教科書などはすでに持ち帰り、唯一残っている消しゴムを手持無沙汰ににぎにぎしながら冬森は大欠伸を一つ、天音は入学準備教育として読解するよう指示されていた小説に視線を戻した。 もちろん二人が卒業式をサボることはなかった。

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