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春の兆しがちらつき始めた、吹く風は冷たさを残しつつも日だまりはポカポカあたたかい、昼時のグラウンド。
「な、な、なっちゃぁん」
「やだ……卒業しないで、お願い……」
体育館での式典が済み、教室での最後のHRも済み、多くの卒業生が校庭に移動してお互い別れを惜しんでいる中で。
「あさちゃんさくちゃん、よしよし、いつでも遊びにおいで」
夏川は、現在中等部三年生の亜砂と櫻井にぎゅうぎゅうされて、惜しみなくスーハ―スーハ―していた。
「なんだあれ、むつご●う王国みてぇ」
予想通り、肌寒い体育館で長ったらしい話を聞かされ、疲れた肩を卒業証書の入った筒でポンポンやっていた冬森は失笑する。
「冬森ぃ!!」
「げ、こっち来やがった」
「竜宮城へ武者修行、頑張ってね! 俺、応援してるからね!」
「え、この目つき悪い先輩、武者修行の旅に出るの?」
「……竜宮城で……モンスター退治……するの?」
「意味わかんねぇわ、竜宮城って何県にあんだよ、どっかの地方にあるスナックか、中坊どもが、とっとと散れ」
「「うーーーーーっっ」」
「ほらほら、けんかしちゃだめ、あさちゃんさくちゃんも来月卒業式だし、もう高校生なるんだし、イイコイイコ」
「なにがイイコイイコ、だ」
「冬森ぃ、ほんっと、おけつ淋しくなったらいつでも呼んでね、どこにいようと駆けつけるからね♪ 冬森のおけつ、イイコイイコ♪」
「ケツさわんじゃねぇ」
「随分とスケべなイイコイイコだねぇ」
カチッとしたフォーマルスーツ姿の村雨が夏川の背後へのほほんやってきた。
「冬森君、夏川君、卒業おめでとう」
「さっき教室で聞いたし、校長も理事長も在校生代表の奴も言ってたし、くどい」
「ふーーーーーッッ」
「こらこら、夏川君、先生のこと威嚇しない、ところで例の件考えてくれたかな? まだ間に合うよ?」
周囲では後輩の運動部員らが卒業していく先輩を胴上げしていたり、担任を胴上げしていたり、保護者の方々が遠巻きに微笑ましそうに眺めていたり。
日だまりの男子高グラウンドは爽やかな「仰げば尊し感」に包まれていた。
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