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「冬森、留年免れてよかったな」
「これは奇跡です」
騒がしい群衆の合間を練って今度は春海と秋村がやってきた。
「奇跡じゃねぇよ、天音のおかげに決まってンだろ」
「その天音はどこいるんだ?」
「ん、あそこ」
「桜の木の下に一人でいるんですか」
「桜の木のおばけみたいだろ」
「せめて桜の木の精って言ってやれよ」
「桜の木の下に埋められた犠牲者の亡霊みたーい♪」
馴れ馴れしい村雨をシャーシャー威嚇し、亜砂と櫻井に押しつけてきた夏川は冬森の片腕に飛びついた。
「なんだかんだ、あっという間の六年だったかもな」
「わぁ、さっすが春海ぃ、卒業式っぽいこと言う♪」
「春海を馬鹿にしたらグーで顔面殴りますよ、夏川」
「いつかまたこんな風にバカなこと言い合いてぇな」
春夏秋はこぞって冬森を見やった。
「……ンだよ?」
「冬森が卒業式の定番台詞みたいなこと言った、今」
「あ? 別に言ってねぇよ、春海?」
「冬森にそんなこと言われたら泣けてきちゃうからやめて」
「俺は言ってねぇ、夏川」
「冬森……」
「だから言ってねぇ、秋村ッ」
春海と秋村は第一希望の大学へ、夏川は動物と関わる仕事がしたいからとペット科のある専門学校へ。
四人それぞれ別々の場所で新しい四季を始める。
「せっかくの卒業式だし、冬森のこと胴上げするか」
「しよしよ♪」
「胴上げしたらパンツが見えそうなのでちゃんとベルト締めてください」
「誰が胴上げなんかされるかッッ」
中学入学時から親しくしている春夏秋の元を離れ、男泣きしている同級生らを尻目に、冬森は桜の木の下へ。
「桜のおばけ見っけ」
開花はまだ先のソメイヨシノに寄り添って佇んでいた天音の隣へ。
「おばけや怖い話は苦手だろう、冬森」
青春湧き立つグラウンドを吹き抜けてきた風に黒髪を靡かせて天音は冬森を見下ろした。
頭上を仰げば。
乾いた枝を四方に伸ばす桜を背景にして静かな微笑を浮かべる眼鏡男子が褐色男子の視界いっぱいに広がった。
「あ」
まだ眠りについているソメイヨシノに淡い薄紅が優しく灯って弾けたみたいな。
「?」
「ほんと、春海が言ってたやつみてぇ」
「春海が何か言っていたのか」
「腹へったな」
「……うん、そうだな、空いた」
「飯おごってやるよ、天音」
「今から謝恩会がある」
「それこそガチでさぼろーぜ」
どえらく生意気そうなふてぶてしい目に誘われて純和風まなこはまんまと絆された。
「うん、ガチでさぼろう、冬森」
細長くきれいな指に褐色指を絡め、冬森は、六年間を過ごした学校とサヨナラした。
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