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天音が冬森に連れて行かれた場所はやたら趣きのある、何とも風情豊かな隠れ家的雰囲気を持つ和食料理店だった。 繁華街から裏通りに入った小道の先にある古めかしい門構え。 中に入れば緑が瑞々しく生い茂る庭園が目の前に広がる。 我先にと開花した枝垂れ梅のほんのり淡い色合いが初々しい。 中央には灯籠の連なる敷石のアプローチ、濡れ縁の前を通り抜ければ格子戸の出入り口がこれまた古風な二階建ての母屋。 まるでレトロな旅館さながら、だ。 「冬森」 「ん」 「今日、俺はそんなに手持ちがない」 「はー? だから奢るって言ってんだろ」 「おや、珍しいお客さんじゃないか、いらっしゃい」 「よぉ、久々に来てやったぞ」 ランチタイムで賑わう時間帯だった。 ゆったり広い玄関に出迎えにやってきた、白の長袖シャツに黒ズボン、黒前掛けというシンプルな制服の従業員らしき男性に冬森は親しげに話しかけている。 「なぁなぁ、離れ空いてる?」 天音は自ずと察した。 そうか、ここは。 「ひょっとすると、今日、もしかして卒業式だった?」 「離れ空いてんのか?」 「生憎ながら埋まってます、今丁度一階の個室に空きが出たから、ああ、専務を呼ぼうか?」 「忙しいだろ、別に呼ばなくていーわ」 「ハイハイ、ご卒業どうもおめでとうございます」 「くどい」 「ごちそうさまでした」 「ん」 「とても雰囲気のあるお店だ」 「どーも」 夜のメニューと比べて比較的リーズナブルな昼御膳を頂いた天音は塗り箸を揃えて下ろした。 四名席の掘りごたつ個室は竹垣に仕切られた坪庭と接していた。 雪見障子から石灯籠に苔むした庭石、蕾の綻ぶ椿、常緑の低木などが窺える。 十代青少年にはまだまだ不釣り合いな和ラグジュアリー空間のように思えるが。 「お前ってこーいう雰囲気に恐ろしく馴染むのな、天音」 冬森が雑に淹れてくれたお茶を静々と飲んでいた天音は小首を傾げた。 「そうだろうか」 「どーよ、将来、俺と一緒にこの店切り盛りしてくか?」 「ッ……ごほ」

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