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「噎せんなよ、じょーだんだって、まー俺が現役までこの店面倒見てやって、後はクソコタか周太のこどもにバトンタッチすりゃあいーよな、で、引退して安定の老後暮らし、あ、何かデザート食う? 栗プリン食う?」
やや呆気にとられていた天音が「もうお腹いっぱいだ、ありがとう」と礼を述べれば。
座椅子の背もたれに踏ん反り返った冬森は筒から無造作に卒業証書を取り出し、つまらなさそうに眺め始めた。
「まだきちんと見ていない。どんなことが書いてある?」
「んー、遠距離恋愛で他の奴と浮気したら即血祭りって書いてある」
「あのな」
「ぷ。遠距離恋愛って。まさか当事者になるなんてな」
「……」
「お前風邪引くんじゃねーぞ」
「うん」
「もし風邪引いても他の奴に看病させんなよ」
朱色のテーブルを挟んで向かい合った二人。
靴は玄関で脱ぎ、靴下のみ履いた天音の足に冬森の足がお行儀悪く絡んできた。
「二年、か、この六年あっという間だった気もすっけど。お、二年後っていったら二十歳じゃね。再会したときは酒飲むか。まーウチではちょこっと晩酌してっけど、焼酎いけっけど」
明日、ここから旅立っていけば。
二年間、冬森は帰省せずに向こうに留まることになっている。
「離れたくねぇな」
「俺もだ」
本音を告げ合った二人は視線を深く重ねた。
「ほんとかよ?」
いつにもまして真摯な眼差しをひた向きに注がれて彼の褐色頬は素直に紅潮した。
「離れたくない、ずっと一緒にいてほしい」
「それってプロポーズみてぇ」
ずっと胸の内にあった言葉を捧げた天音に冬森は嬉しそうに笑いかけた。
「それ聞けただけで十分」
「どうぞ、栗プリン」
「頼んでねーぞ」
「高校卒業のお祝いに」
「やっす」
「遠慮しないで、天音くんもどうぞ」
「あ……はい、ありがとうございます」
「ウチの愚息がいつもお世話になっています」
「っ……いえ、こちらこそ」
「グソクって何だよ、俺ぁグソクムシじゃねーぞ、社長ぉ」
「まぁ、とっくの昔にご存知でしょうが、こういう奴でしてね。何かとご迷惑かけるかもしれませんが。これからも仲よくしてやってください」
「息子の卒業式の日、当日に知るよーな商売バカが親ぶってんじゃねぇ」
栗プリンをがっつく冬森の傍らでニコニコしている男性に、初めて会う同級生彼氏の父親に、天音は頭を下げた。
「息子が天音くんのような人に巡り会えて安心しました」
再び、天音は、察した。
冬森の父親が自分達の関係を把握しているということを。
その上で温かい言葉をかけられ、思わずグッときそうになった、だがしかし。
「卒業式のお祝いに栗プリン出すよーな奴が偉そーに言うんじゃねぇ、つぅか天音のことそんな知らねぇだろーが、晩酌で酔っ払って俺の話いつもハイハイ聞き流してただろーが」
依然としてテーブル下でしつこくちょっかいを出してくる冬森の足をあしらうのに実のところ精一杯なのだった。
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