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冬森の父親が社長、母親が専務、ちなみに祖父が会長という家族経営の割烹料理店を後にした冬森と天音。
「今から作るのか」
最寄りのスーパーで材料と、わざわざ一人用土鍋を購入し、天音宅のキッチンで冬森は卵粥作りに取り掛かった。
「その内腹空くだろ、あ、昨日の冷やご飯とか残ってねぇ?」
「全部食べた」
「じゃあ炊かねぇと」
「冬森、せめて土鍋代だけは出させてほしい」
「いーからいーから、俺から天音への卒業祝い、栗プリンより断然いーだろ」
学校から贈呈されたコサージュがついたままのブレザーをソファにぐちゃっと脱ぎ捨て、長袖シャツを腕捲り、ゆるゆるネクタイの冬森は米研ぎを始めた。
ぐちゃっと脱ぎ捨てられていたブレザーをハンガーにかけ、黒セーター姿の天音は、何かお手伝いできないかと玄関前のキッチンへ。
「あー、寒ぃ、冷てぇ」
自分から率先してやっている割にブチブチ文句を零しながら冬森は米を研いでいた。
「冬森、ちゃんと手は洗ったか」
「洗ったわ、水冷てぇ、お湯で米研ぎってアリだと思う?」
「ナシだと思う」
あんまりにも大雑把な洗い方で米粒がシンクに吹っ飛んでいる。
「冬森、お米がもったいない」
「はぁ? たった何粒かだろ?」
「何か手伝うことはないか」
「いいって、あっちで本でも読んでろ……あ」
冬森は急にぐるりと振り返った。
真後ろに立っていた天音に背中からスリ……と、もたれかかってニンマリ笑う。
「俺、天音の嫁みてぇ」
普段は天音を俺の嫁呼ばわりしていたえろあほ男子、お米をおざなりに研ぎながら、スリスリスリスリ、猫嫁みたいに擦り寄った。
「冬森、お米が零れてる」
「にゃー、貴方ぁ、ごろごろ」
「それは……一体何の真似だろう……」
「だんな様に甘える甘えんぼーの新妻とか?」
どちらかと言うとマタタビでも与えられた肉食ネコ科じみた様子の冬森は天音の頤をぺろりと舐め上げた。
「新婚の女性がこんなことするのか……?」
「さーな。俺がお前の嫁だったら四六時中すっけど?」
けしからん猫嫁じみたえろあほ男子は愛しい唇までぺろり、した。
「ふゆも、」
かぷ、と下唇を甘噛みする。
悪戯にちょっと引っ張ってみたり。
「ふ」
「んぶ……なぁ……おかゆの前に、とりあえず、俺のことつまんどく……?」
眼鏡の奥に秘められた長い睫毛が小刻みに震えた。
肩越しに頭上を仰ぐ冬森の顎に片手を添え、悪戯に笑んでいる眼を覗き込んで、天音は答えた。
「食べたい、冬森」
う。
以前に聞いた「……おいしいよ、冬森」に匹敵する悩殺ボイスにイチコロ状態な冬森は奮い立った。
「は、早く、早く食べろ」
「うん……」
「ッ……焦らすなっ……天音ぇ……早く……」
「わかった……」
今度は自分から悪戯するのではなく、お利口さんして待っていた冬森の唇に天音はゆっくり口づけた。
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