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37-冬森がバイバイだゾ

「天音」 「ん……ふゆ、も、り……?」 「起こしてごめんな」 「……今、何時……まだ暗い……?」 「これお前に預けとくわ」 「……?……」 「俺が持ってたらなくしそ」 「……」 「じゃあな」 夜明け前に冬森は天音のアパートを去って行った。 褐色男子の温もりがまだ微かに残るベッドで寝返りを打ち、掌に押しつけられた消しゴムの感触に天音は小さく笑った。 いい匂いがする。 もちろん無臭の消しゴムからではない。 どうやら冬森は夜更けに起床してちゃんと卵粥を完成させていったらしい。 冷たく蒼茫とした空気に浸された街を突っ切っていく冬森の背中を思いながら天音は起き上がった。 昨日、疲弊するのも二の次に動物じみた本能のままに同級生彼氏と慌ただしく潜り込んだベッドから出、薄暗いワンルームの明かりを点す。 キッチンに出てみればまだ湯気を立ち上らせている土鍋がコンロ上に乗っかっていた。 後片付けも済ませてある。 指先で熱さを確認し、蓋の取っ手を持ち上げてみれば、冬森特製の卵粥がお目見え。 一先ず熱いシャワーを浴びて、散らかっていたワンルームをざっと片づけ、もう一度火を入れて、コタツテーブルに慎重に運び、口をつけた。 おいしい。 みじん切りされたショウガの風味がアクセントになっていて、ちょこんと乗っけられた三つ葉、ふわっとした卵、正直冬森が作ったものとは思えない、あったか優しい出来栄えになっていた。 カーテンの向こう側では夜明けを迎えて空が白み始めていた。 「ありがとう、冬森、行ってらっしゃい」 白み始めた空の下、寒そうに肩を縮こまらせて歩道橋を渡っていた冬森は下弦の月をふと見上げた。 「行ってきます、天音」

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