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「冬森」
天音の純和風まなこに写り込んだ彼。
すっきりスリムなダークスーツ。
きちんと締められたネクタイ。
ラフにセットされた短髪はさもおばかそうなカラー……ではない、極々自然な黒だ。
どえらく生意気そうなふてぶてしい目……は、ちょっとばっかし生意気感が抜けて成人らしい落ち着きを持ったような。
「成人式でなにクソいちゃついてんだよ? ああ?」
いや、気のせいだった、天音に抱きついていた夏川の襟首を引っ掴んで引っ剥がし、ヤンキーみたいに殺気立つ眼差しでオラオラ威嚇してきた、落ち着きなど微塵も持ち合わせていなかった。
「え、冬森か?」
「ふ、ふ、ふゆ、ふゆも」
「一瞬、誰かと思いました、黒髪の冬森なんて初めて見ます」
旧友の春夏秋は面食らっている。
「あ? コイツ夏川かよ?」
「っ、な、夏川だよぉ、冬森ぃ、髪黒い冬森やばぃぃ」
「なんで天音に馴れ馴れしく抱きついてんだよ」
「久しぶりだな、冬森、修行お疲れ」
「あ? 春海変わってねぇな、ん、秋村とお揃いの時計してんのか」
「ッ……だから言っただろ、秋村」
「二人の愛の印のペアウォッチです。ところで冬森、どうしてメールの返信くれないんです、せめて一言くらい」
「毎晩毎晩バタンキューで返信どころじゃなかったんだよ、お前さみしがり屋なカノジョか。大体、まだ修行終わってねぇし。三月末までみっちりだし」
「お前、大ホールのどの辺にいた?」
「会場入ってねぇ。今来たばっか。どーせつまんねぇ話だらだら聞かされたんだろ。むり」
久し振りに揃った春夏秋冬が前と変わらないテンポで会話するのを天音は眺めていた。
……冬森だ……。
一昨年の春先に行われた卒業式。
その日のことが天音の脳裏に穏やかな波のように打ち寄せてきた。
感極まっている夏川のハットを押さえ込んで目深に被らせ、些細な意地悪をした冬森は、天音と向かい合った。
「よぉ、天音」
「っ……」
「何だよ、何笑ってんだよ?」
「さっき夏川がそう言って冬森の真似をしていた」
「はぁ? 下らねぇことすんなよな、夏川ぁ」
冬森、冬森、冬森。
話を交わしながら天音はずっと胸の内で冬森を呼んでいた。
「会いたかった」
冬森からそう言われると、心臓がせり上がってくるような感覚に喉元を圧されて、言葉がつっかえた。
代わりにぽろりと涙が溢れた。
すぐに気がついた褐色男子は色白の頬に流れ落ちた透明な雫を拭ってやった。
「俺も会いたかった、冬森」
その場で天音に抱きしめられると、笑って、自分も抱きしめ返した。
「ただいま、天音」
「おかえり、冬森」
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