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「二人の世界に浸っているところ悪いけれど公共の場所で濡れ場に突入するのはやめようね?」 聞き覚えのある声に視線を向ければ、高校時代の担任・村雨が賑々しい新成人らを背景にしてのほほん立っていた。 「ぎゃっ……村雨センセイ……」 一番反応したのは夏川だった。 春海と秋村の後ろにさっと隠れて自分からハットを目深に被り、あからさまに警戒している。 天音の胸に溺れっぱなしの冬森は「なんでいんだよ、村雨っち、もうとっくに二十歳過ぎてんだろ」と、あっかんべーした。 「冬森君、相も変わらず困ったコだねぇ」 「今から学年同窓会あるんだぞ、冬森」 「同窓会? 知らねぇ」 「やっぱりメール読んでいませんでしたか」 「夏川君、君はもちろん来るよね?」 「誰が行くかーーーーっ!!」 「亜砂君と櫻井君も特別に呼んであるんだけどなぁ」 「あ……っあさちゃんさくちゃん人質にすんなっ、げすおっさん教師がっ」 どうやらゲス教師と腹黒男子の攻防は今現在も続いているらしい。 「天音、どーする? この後同窓会あんだってよ? お前行く?」 冬森が問いかけると褐色首筋の辺りで囁きによる回答が返ってきた。 「さぼろう、冬森」 くすぐったそうに首を窄めた冬森は満足げに頷く。 「だな」 曇天の空からちらつき始めた雪。 いくらか注目を浴びながらも抱き合って心音を共有する二人。 「あ、そーだ、天音」 「うん」 「後でアレ返してくれよ」 「アレ?」 「お守り」 「あの消しゴムか」 「そ」 「あの消しゴムは使い切った」 冬森はガバリと顔を上げた。 平然としている天音を信じられないという顔つきで見返した。 「何でそんなことしたんだよ、ばかたれ」 「うん」 「うん、じゃねぇよ、おい」 卒業式の日まで大事に大事にしていたお守りを使い切ったと淡々と言われて憤慨している彼に、天音は、告げた。 「代わりに俺が冬森のお守りになる」 ぐっと詰まった褐色男子は。 それでもやっぱり引き下がれずに眼鏡男子をポカリとゲンコツしたのだった。

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