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「髪長ぇ、天音」 帰宅したばかりで暖房の効きが弱い、指先に冷気が纏わりついてくるワンルームの中。 お行儀悪くスーツのままベッドに仰向けになった冬森は、自分に覆いかぶさる天音の髪に触れた。 「邪魔だろうか」 天音が問いかければ結び損なった髪の束を破天荒なこどもみたいにグイグイ引っ張ってきた。 「痛いんだが」 「きれーな髪だな、毎日トリートメントしてドライヤーかけてんのか?」 「自然乾燥だ」 「へ~~~」 長い髪を括っていたゴムを勝手に外し、五指を滑り込ませ、さらさらした手触りを好きなだけ堪能しまくる。 顔を寄せて鼻先を突っ込み、フンフン、シャンプーの残り香まで思う存分満喫した。 「いー匂い。クセんなりそ」 少々気恥ずかしいものの、心地がよく、冬森と同じくスーツを着用したままの天音も彼の黒髪に触れてみようとした。 「にゃー」 すかさず掌に頬を擦り寄せてじゃれついてきた冬森。 現在、モーレツ甘えたモードにあるようだ。 「冬森、少し痩せたか」 「お前がいっつも重たいってデブ扱いすっから」 今度は指の匂いをフンフン嗅いだり、骨張った関節を甘噛みしたり、ぺろっと舐めたり。 「毎日布団出したり入れたり、浴場磨いたり食膳運んだり、酔っ払いに絡まれたり、皿洗いしたり、おつかいダッシュで行ったりしてたら自然と痩せたわ」 「酔っ払いに絡まれる……」 「大したことねぇよ」 心配する天音を冬森は抱き寄せた。 「痕、消えたな」 卒業式の日に互いの首筋に刻んだ所有の印。 「残っていたら相当な重傷を負ったことになる」 「またつけ合いっこしよーぜ、天音」 「冬森……いつ修行に戻るんだ」 「明日の夜までにアッチに戻れるようチケット手配済み。今日は泊まらせろ」 不意に冬森は天音を間近に覗き込むと「お前、俺がいなかった間浮気してねぇだろーな?」と、再会イチャイチャムードを台無しにする無神経な質問を寄越してきた。 イチャイチャムードをあんまり気にしない天音は素直に「していない」と答えた。 「ほんとかよ、合コンとか行ってねぇのかよ、周りの女に声かけられねぇのかよ」 「合コン、か、前に冬森に連れていってもらった一回で十分だ」 「あ、そ」 俺は浮気しまくったけどな。 「え……?」 無神経どころか最低最悪極まりないあほあほ発言を真に受けて素直に強張った純和風まなこ。 「コレ、俺の浮気相手」 硬直した天音の目の前で冬森は利き手をひらひらさせた。 わけがわからずに、動揺して言葉が出ずに、ただただ切実な眼差しで意味を問うてくる眼鏡男子に上目遣いに笑いかける。 「俺の右手ちゃん」 「……」 「かわいーだろ」 「……」

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