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第5話

 レストランのオーナーが迎えに来る前に渡辺君に会えれば……と思ったが矢張り無理だった。  朝、配達員達にデザートを納品した後、店の入口に「定休日」の看板を置いて、傍に置手紙をする事にした。 (気付くよね、渡辺君)  心の中で祈る様に言ってから迎えの車に乗り込んだ。  一晩考えたデザインを再現したミニチュアケーキをオーナーに見せると即OKが出た。一晩で考えたケーキだが、レストランには充分な種類のフルーツが揃っているとの事だから、見栄えのするケーキを作る事はできるはずだ。  パーティはオーナーの親戚主催だった。  レストランを貸切にしていた事もあり、昼過ぎに始まったパーティは日没まで続いた。当然、デザートのケーキを出す時間も遅くなったし、遅くなったついでにオーナーに夕食を勧められてしまい、断りきれなくて頂く事になった。結局、僕が店に帰ったのは夜九時を過ぎてからだった。 「随分と遅くなっちゃったよ」  店に戻って真っ先に確認したのは置手紙だった。 「……置手紙、そのままだ」  雪の積もった看板近くに置いていた紙袋は朝、置いた時の姿そのままだった。中に入れていたクッキーも手紙も残っていた。 「渡辺君……来なかったのかな?」  来たものの袋に気付かず帰ったのだろうか。  紙袋を持って店の中に戻り、厨房の奥にある自室に入ってテレビを付けた。冷たくなってしまったクッキーをテーブルに置き、熱い珈琲を淹れながら一息吐く。  テレビは夜のニュースをやっていた。 「あ……東京の事件?」  見覚えのある景色が画面に映し出されていた。犯人が潜伏していたという別荘らしい。別荘のオーナーがインタビューに答えていた。 「人の居ない別荘を犯人が勝手に使ってたんだ……。指紋とかも出たって……。渡辺君、今日は一日、ずっとこの捜査だったのかな」  物証が出て来たとなれば随分と忙しかったに違いない。一日中、いや、もしかしたら今も仕事に打ち込んでいるかもしれない。 「大変だけど……頑張って」  テレビの前で応援しながら僕は少しの休憩の後、明日の準備に取り掛かった。  しかし……。  翌日、その翌日、さらにその翌日……。  渡辺君は店に来なかった。  テレビでは事件が大きく取り上げられていて、連日、詳細が報道されていた。  ただ、ただ待つだけの日が過ぎ、遂に渡辺君に会えないまま一週間が経過した。  暗い外を見ながら店を閉め、看板を仕舞う。 「今日も……来なかったね、渡辺君……」  僕は忘れられているのかも……。  そんな悲しい思いが胸をよぎった。  あの数日間は実は夢で、告白したのもキスを貰ったのも夢だったのかもしれない。そんな風に思えるくらい寒く寂しい一週間だった。 「明日も……来ないの?」  身を切る様な寒さの中で呟いても、誰も応えてくれる人は居ない。  ちらつく雪が僕の孤独感と寂しさを一層強くしていた。

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