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第7話

 僕の毎日は普通に戻った。  配達員に珈琲とシフォンケーキを振る舞い、朝七時に店を開けてケーキを作りながら接客をする。  常連客と他愛無い会話を交わしながら、普通の一日を過ごすのだ。 「いつもありがとうございます」 「いいえ。孫がここのケーキが好きでね。週末に来るから予約をお願いね」 「はい、確かに承りました」  ケーキの引換券を渡しながら笑顔で答えると、常連のお婆さんはケーキを並べているガラスケース越しに顔を近付けてきた。 「ここニ、三日、何かあったの? ケーキのデコレーションが少し寂しくなってる様に思うのよ?」 「え、あ、も、申し訳ありません!」 「いえいえ、違うの。ケチ臭くなってる、なんて言ってるんじゃないのよ。味は美味しいし、満足してるわ。でもね。何か華やかさに欠けてる様に思えるの。ケーキに元気が無い様な気がするわ」 「ケーキに元気が……?」 「そう。私の思い過ごしかもしれないけれどね。素直な人ほど想いが表に出易いものよ。早く元気になってね」  お婆さんはニコリと笑ってそう言うと、僕の頭を撫でてからお店を出て行った。 「元気に……か」  暫く難しいかも、と苦笑しながら見送り、ショーケースにケーキを追加する。  今日は誕生日ケーキの注文もあり、かなり忙しい。こんな日は考え事をする暇が無いから今の僕にとって有り難い日だった。  飛び込みのアニバーサリーケーキの注文を受けたりしているうちに一日が終わった。  嬉しい事に、閉店三十分前にはショーケースの中のケーキも殆ど無くなっていた。 「ちょっと早いけど、今日はもうお店を閉めちゃおうか」  そう思って店の外に出た時だった。 「閉店か?」 「……! 渡辺君」  いらっしゃいませ、とは言えなかった。  通りに立っていたのは久し振りに見る渡辺君だった。店に来てくれたのは何日振りだろう。以前と同じスーツ姿、近寄り難い雰囲気に変わりは無い。 「珈琲を貰えるか?」 「あ、うん……。いいよ」  戸惑いながら僕は渡辺君を店内に入れた。  店の入口に「閉店」の看板を提げてから扉を閉める。 「チーズケーキでいい?」 「あぁ、貰おう」  湖の見える隅の席に渡辺君が座るのは久し振りだった。椅子を後ろに引いて肢を組む姿は同じだ。でも、何故かその背中が酷く遠くに見えた。 「はい、どうぞ」  珈琲とチーズケーキをテーブルに出した。本当は向かい側の席に座りたかったが、何故か座ってはいけない気がした。 「渡辺君……、久し振りだね。忙しかったんでしょ?」 「あぁ。思いの他、捜査が進んだからな。今も本庁と遣り取りが忙しい。それで……」 「それで?」 「明後日、東京に帰る」 「え?」  突然の言葉だった。  チーズケーキを食べながら淡々と渡辺君は話していたが、僕にとっては余りに唐突な言葉だった。 「明日、こっちの地元警察と打ち合わせをした後、明後日の早朝に発つ。昼前から本庁で捜査会議があるんだ。報告事項が山積していてな」 「そう、なんだ……」 「色々、世話になった」 「……うん」  渡辺君の言葉は腹が立つ程、他人行儀なものだった。だが、それも仕方が無いと思う自分が居た。  渡辺君の背中を見ていると涙が溢れて来た。涙が零れるのに顔は笑顔になるのが不思議だった。 「ごめんね、渡辺君。僕、色々、迷惑掛けたね」  ケーキを運んできたプレートを抱き締めながら僕は謝った。 「迷惑だったよね。僕は男だし、渡辺君くらい格好良かったら素敵な女性が居てもおかしくないよね。なのに『好き』なんて言ってゴメンね。僕じゃ、何も力になれないのに……近くに居る資格なんて無いのに『好き』なんて言って……。忘れてくれて良いよ」 「……真?」  渡辺君は手を止めて僕の方を見た。まだ「真」と下の名前で呼んでくれたのは嬉しかったが、でも胸の痛みは強くなるばかりだった。 「でもね、でも……僕の渡辺君に対する想いって、冗談でもなんでも無かったんだよ。覚えてる? 高校二年の時、僕が作ったチョコレートに対して渡辺君が何て言ったか。友達が皆『美味しい』しか言わないのに、渡辺君は僕にこう言ったんだよ」  ホワイトチョコとビターチョコが丁度良い感じで美味い。ただ、左右でチョコを使い分けているとハートが縦に割れる感じがして贈り辛くないか?  贈り手の気持ちになって考えてみろ、と渡辺君は僕に指摘してくれた。  味も大切だが贈る人の気持ちはもっと大切だ。そんな心を渡辺君は僕に教えてくれた。 「あの言葉が今の僕のケーキ作りの信念なんだ。あの言葉が無かったら、僕はただのケーキを作る人だったと思う。沢山のお得意さんに恵まれた僕がここに居るのは、渡辺君のあの言葉があったからなんだ」 「……」  渡辺君は何も言わずに僕の言葉を聞いていた。その視線を正面から受け止めながら僕は溢れる言葉を止められなかった。 「この店の名前『星の贈り物』も渡辺君の名前『龍星』から取らせて貰ったんだ。『龍星』っていったら『流星』と音が同じでしょう? 沢山の願いを叶えてくれそうで素敵だし。そのままだと恥ずかしいから『星』だけ使わせて貰ったけど」 「……真、お前……」 「バレンタイン限定のケーキも……毎年、期間限定販売なんだ。発売は二月十日。渡辺君の誕生日だよね。十四日までの期間限定商品にしてるんだ。僕にとって特別なケーキなんだよ」  心の中にあった想い、別れる前に伝えておきたかった事を全て言葉にした今、僕はホッとしていた。正直に想いを伝えた事で、自分の心を整理する事ができる様に思えた。泣けたけれど、笑顔になる事ができたのは、話をする時間を持てたからかもしれない。 「ごめんね、渡辺君。でも、僕は本当に渡辺君の事が特別で、大切だったんだよ。それを知って貰えたら……もういいんだ。僕の『好き』は忘れて」  最後の言葉は本心ではなかったかもしれない。だが、この恋が続かないと解っていたから口から零れた言葉だった。  へへっ、と笑って背中を向けた。店は閉店だし、渡辺君は明日の会議に出る為にホテルへ帰らないといけないだろう。 (さようなら、渡辺君)  心の中で別れを告げ、厨房に入って片付けをしようとした時だった。 「わ、渡辺君!」  背後から強く抱き締められた。  その腕の強さと密着する体の熱さに驚いた。僕の耳元に渡辺君の息が触れる。それが凄く荒い様に思えた。 「悪かった、真」 「え?」 「お前の想いを俺は全然解って無かった」  渡辺君の低い声が鼓膜を直接揺さ振る。 「俺は刑事だ。それに不器用だから仕事を始めるとそれ以外が見えなくなる。俺に近付いて来る者は皆、『仕事を第一にする人でも良い』と言う。だが、実際に付き合ってみると違う。直ぐに『私と仕事、どっちが大事なの』と俺に迫る。そんな者ばかりと付き合ってきた。だから……言い訳にしか聞こえないだろうが、そうだったから俺はお前の言葉も本気にしなかった」 「渡辺君……」 「でも……お前は違ったんだな。高校の時から俺を見ていて、十年以上も俺の言葉を大切に想ってくれて……そして今も俺の事を想ってくれている」  渡辺君は僕を抱き締めたまま言葉を止めなかった。さっき僕が一方的に喋ったお返しに、と言う様に話し続けた。 「親父の仕事の所為で俺は転校ばかりだった。友人を作っても直ぐに別れてしまう。だから俺は深く人と関わり合うのを止めた。ただ疲れるだけだからな。社会人になっても同じだ。自分の都合ばかりを押し付けてくる者と向き合うのが嫌で、俺は本気になるのを止めていた。本気にならなければ傷付く事も、悩む事も無いからな。そんないい加減な俺に対してお前は……本気だったんだな」  渡辺君の腕が動いた。  背後から抱き締められていたのが、今度は向かい合う格好で抱き締められた。厚い胸板に顔を埋める体勢になる。 (うわ……渡辺君の胸に……)  身を包む渡辺君の熱さと、耳に聞こえる鼓動の速さが僕の体を痺れさせた。このまま離れたくない。そんな想いがどんどん強くなっていく。 「真は本当に人畜無害のハムスターだな。お前、もし俺が今日ここに来なかったら何も言わずに身を引くつもりだったんだろう?」 「……だって、渡辺君の迷惑になると思ったから。この前ホテルに行った時、来るなって言われたし、それに女の人も居たし……」  この答えに渡辺君が腕を緩めた。  恐る恐る渡辺君の顔を見上げると、困惑した様な顔が見えた。 「あれは……刑事の俺に近付く事で、真が警察関係者と間違われて報道陣に付き纏われると困るから『来るな』と言ったんだ」 「え? 邪魔だから……じゃなかったの?」 「違う。それに彼女は俺の同僚だ。既に結婚していて子供も居る」 「そ、そうなの!」 「あぁ。今、付き合っている者は居ない。だからお前の告白を受けたんだ。いや、まぁ、本気にしていなくて曖昧な態度だった俺が悪かったが……」 「じゃ、僕の……勘違い?」  嫌われた、というのは自分の思い過ごしだった。そう解ると、途端に渡辺君が憎たらしくなった。 「もう! 渡辺君の馬鹿! 僕はてっきり、渡辺君に嫌われたと思って……。ただの迷惑だったと思って……」 「悪かった。俺が悪かったよ、真」  再び強く抱き締められた。  そして直ぐ、唇を塞がれた。 「ん……ぁぁ、んっ……」  触れた渡辺君の唇はとても熱かった。それ以上に熱い物が歯列を割ってきた。熱く湿った生々しい感触が口腔内いっぱいに広がる。 (指先まで……痺れる……)  いつの間にか、僕は両腕を渡辺君の首に回していた。いつまでも唇を重ねていたい。体中に走る甘い痺れが途切れない様に、ずっと繋がって居たい。そんな想いを体で渡辺君に示す。 「ンッ、ァァッ……」  息つく間さえ惜しかった。口付けに夢中になっていると、渡辺君が僕の体を押し倒してきた。冷たい作業台に仰向けになった。両脚の間に渡辺君が立っていて身動き取れない状態だ。 (ちょっと……怖い。でも……何されてもイイ……)  全身に感じる渡辺君の重みが心地良い。  これから先の事を勝手に想像しながら成されるがまま、全てを渡辺君に任せた。 「……好きだよ? 渡辺君」 「あぁ。……俺も……十年以上想い続けてくれたお前なら信じられる。お前の事は、真剣に……真面目に、好きだ」 「好き……大好き……渡辺君が好き」 「龍星と呼べ。いいな、真」 「……りゅう、せい?」  プチプチとボタンが外されていく音を聞きながら初めて下の名前で呼んだ。かなり気恥ずかしかった。でも、これでやっと本当の恋人同士になれた気がする。そしてお互いの想いを体で確かめ合う最高の時間を向かえる事ができる。 「綺麗な体だ。……誰にも触れさせた事が無いだろう?」 「触られた事なんて……無いよ。龍星が初めて。……こんな姿を見せるも」 「こんな姿ってどんな姿だ?」  龍星がニヤリと笑っていた。  僕は作業台に組み伏せられてシャツの前を全部肌蹴た姿だというのに、龍星はスーツをキッチリ着込んだままだ。細い眼鏡の向こうで心の奥まで見透かす目が意地の悪い光りを放っていた。 「ど、どんなって……」 「言えよ。どんな格好しているか、俺に教えてくれ」 「そ、それは……龍星の前で……上半身裸になって作業台に仰向けに……」 「それだけか?」 「え? ほ、他に何か……」 「可愛いピンク色の乳首をツンツンに尖らせているぞ? 俺に見られただけで硬く尖っているのが解らないか?」 「そ、それは!」  龍星は普段は寡黙なのにエッチの時は意地が悪い。ほら、と言いながら僕の乳首を爪の先で弄り始めた。 「ァァァッ!」 「初めての癖に感度は良いんだな。グリグリと痛くされるのと、優しく舐められるのはどっちが良い?」  右の乳首を爪で弄られ、左の乳首を舌で舐め回された。痛みは直ぐに甘い痺れに変わるし、舌の熱く濡れた感触はゾクゾクと背筋を這い上がる快感に変わる。 「ど、どっちも……イイ……」 「ほぉ。痛くされてもイイとは厭らしい体だな。なら、もっと虐めてみようか?」 「え、えぇ!」  龍星の口角が吊り上がるのが見えた。龍星は僕から離れると壁際にある冷蔵庫を開け、大きなボールを取り出して来た。 (確か、あれ……ホイップクリームを入れてたボール……)  龍星は取り出したクリームを泡立て器で掻き混ぜ始めた。業務用の大きな泡立て器に絡む白いクリームが徐々にフンワリと変わっていく。 「冷えた所に苦痛を与えると痛さが倍増するらしいが、気持ち良さも同じだと思うか?」 「そ、それは……」 「試してみよう。正直に感想を言えよ?」 「ヒャァッ!」  胸の上にたっぷりのホイップクリームが垂らされた。龍星はホイップクリームを冷たいステンレス製の泡立て器で僕の胸全体に広げていく。泡立て器が乳首に触れる度、僕の肩がビクンと震えた。凍りそうな刺激が肌に刺さる。しかし、それは興奮を掻き立てる快感に思えた。 「つ、冷たい……」 「真っ白いクリームで飾るのも悪く無いな。でも苺か何かがあった方が綺麗だな」  そう言った龍星は僕の乳首に乗ったクリームを舐め始めた。乳首の周りだけクリームが無くなっていく。 「んんんっ……」 「見えて来たぞ。硬く尖った乳首が……。まるでクリームに埋もれたイチゴみたいだ。凄く厭らしい姿だぞ」 「厭らしいなんて……。見ないでよ。恥ずかしいから……」 「可愛いぞ。クリームだらけで俺を誘う姿も悪くない」  龍星の手が僕のズボンに掛かった。ベルトを外され、一気に下着ごと剥ぎ取られてしまう。 「台の上で仰向けのまま肢をM字に開け。膝の後ろに両手を入れて、俺に真が良く見える様にしろ」 「恥ずかしいよ」 「いいじゃないか。俺しか見ていないんだ。俺に全部見せろ」 「で、でも……」 「真が俺に全部見せてくれたら、俺も全てを真に見せてやる。約束する」  低い声で甘い言葉を囁かれると抵抗できる訳がない。僕は台の上で龍星に向かって股を開き、膝裏を自分で抱えてM字に肢を開いて見せた。とんでもなく恥ずかしい格好だ。頬や耳だけでなくて胸まで真っ赤になっているいのが自分でも解った。 (僕、凄い格好してるよ!) 「いい眺めだ……」  フフンと笑った龍星は僕の上でボールを大きく傾けた。泡立てられたホイップクリームがダラダラと僕の体に降り掛かる。 「ァァァァッ!」  冷たいクリームは僕の下腹部や太腿に纏わり付いた。恥ずかしさに震える僕自身にもたっぷりと掛けられている。 「こっちの可愛い真がフルフル震えている。俺に見られて硬くなって……恥ずかしそうに震えていた真の楔も白く綺麗になったぞ」 「ど、どうするの……? 僕にクリーム掛けて……」 「どうすると思う? 乳首だけ晒して、下半身を俺に見せ付けている可愛い真を俺はどうすると思う?」 「み、見るだけじゃないよ、ね?」 「あぁ……」  龍星の息が荒くなっているのが解った。破廉恥な体勢を取り、恥ずかしがる僕を見て欲情している。 「全部、食べてやるよ。お前のハートだけじゃなくて体も全部」  そう言った龍星はM字に開いた僕の膝を抑え付けた。肢を閉じられない様にして、僕の楔を咥え込んだ。 「アァァァンッ! ……ァァ、ァァッ」  龍星の舌が僕に絡み付く。それと同時に僕の体に強烈な快感が走った。生まれて初めて感じる快感だった。 (き、気持ち良過ぎ……っ!)  あの憧れの龍星が、理想の男性像とさえ思えた龍星が僕の楔を咥えて舐め回し、溢れる蜜を啜りながら愛撫している光景なんて、想像した事も無かった。  何度も何度も強く擦り上げる様に舌で弄られ、楔は一層硬さを増していく。それだけでは無く、ドクドクと脈打ちながら今にも欲の証を解放しようと熱を放ち始めた。 「だめ、だめっ……りゅうせいっ!」 「甘いな。……真は凄く甘い。それにどんどん蜜が溢れて来る」 「それ以上、舐めたら……僕っ……」 「なんだ?」 「我慢、できないよっ!」 「何を我慢するんだ?」  股の間から見上げて来る龍星の目は矢張り意地悪かった。しかし、そんな目で見詰められ、支配されている事自体が不思議と心地良い。自分が龍星のモノになったと思えて気持ち良かった。 「で、でちゃうよ……」 「何が?」 「な、何って……あ、れが……」 「あれって何だ?」 「い、意地悪!」 「言えよ。『厭らしい、気持ちの良い蜜が沢山出ちゃいます』って」  普段の龍星からは想像もできないくらい淫らな言葉だった。 (へ、変態! 鬼畜っ!)  心の中で叫んだが、龍星は僕の楔の根元を強く掴んで愛撫を続ける。気持ち良さはどんどん増して行くのに、欲を放つ事は許されなくて、窮屈さと言い表せない焦燥感に襲われる。 「お腹が……パンパンになるよっ」 「出したいんだろ?」 「うん。龍星、お願いだから手、離して。変になっちゃう!」 「だったら言えよ。可愛い口で。胸を自分で弄りながらお強請りしてみろ」  話をしている間も、龍星は舌と歯を使って楔を刺激し続ける。根元から先端まで強く締め付けながら舐め上げたと思えば、先端の割れ目に舌を押し付け、歯も使いながらグリグリと刺激を与えてくる。 「…………、……ます」 「何? 聞こえないぞ」 「でちゃいます」 「何が?」 「い、厭らしいのが……」  龍星がニヤリと笑って一気に僕の楔を啜り上げた。強烈な、我慢の壁を崩壊させる悦楽が僕の下半身を包み込んだ。 「ァァッ! イヤァン! ダメ、だめぇ。出ちゃう、出ちゃうよ! 僕の厭らしい蜜が、気持ちの良い蜜が沢山出ちゃう! 龍星の口に出ちゃうよぉ!」 「いいぞ。好きなだけ出せ!」 「ァァァァンッ!」  下腹部から窮屈さがあっと言う間に消えた。  龍星の指と舌に翻弄され、僕の楔は本能の侭に熱い蜜を迸らせた。  四肢が強張り、背が大きく反った。龍星の頭を両手で押さえ付けながら、僕は生まれて初めて愛を伴う絶頂を感じた。 「あぁっ……、あっ……ぁぁぁ……」  激しく痙攣した体は、ゆるゆると弛緩してフワフワと宙に浮いている様な感覚に包まれた。涙でぼやけた視界の向こうに龍星が見えた。 「りゅう、せい?」 「気持ち良かったか?」 「うん……フワフワするよ……」  優しく微笑む龍星に照れた様な笑みを返すと僕は全身の力を抜いた。いつまでも快楽の余韻に浸っていたかった。 「真」 「なに?」 「ケーキを作る時、デコレーションは最後だろう?」 「うん」 「じゃぁ、最初は何をする?」 「最初? え~と……」  最初は材料を揃え、室温に戻したバターをマヨネーズ状になるまで混ぜる作業だ。 「室温に戻したバターを柔らかく、マヨネーズみたいにトロトロになるまで掻き混ぜる作業だよ?」 「そうか。トロトロになるまで掻き混ぜるのか」 「うん」 「じゃぁ……その作業からだな」  フフッと笑った龍星は僕の体を台の上で転がした。うつ伏せの体勢を取らされたと思ったら、あっと言う間に四つん這いの体勢に変えられた。しかし一度絶頂に達した体に力は入らない。両腕で体を支えられない僕は、うつ伏せで尻を後ろに高く突き出した姿勢を取る事になった。 「さぁ、トロトロに蕩けるまでどれくらい時間が掛かるだろうな」  後ろを振り返ってみるが龍星が何をしようとしているのか解らなかった。 「え、何? 何をするの?」 「ピンク色の蕾だな。大丈夫だ。痛くないようにしてやるから、じっとしていろ」  龍星の言葉を聞いた後、僕は秘所にヌルリとした物が塗り付けられるのを感じた。突き出した尻の中心、誰にも触られた事の無い秘所を龍星の指が弄っていた。 「龍星!」 「バターの良い香りがする。ヌルヌルして気持ちが良いだろう? あぁ、簡単に指が一本入るぞ」 「ァァァッ!」  ヌルン、と何かが秘所に潜り込んだ。思わずキュッと尻に力を込めてしまう。 「締め付け具合は最高だな。さぁ、トロトロになるまで掻き混ぜようか」 「そ、そんな!」  龍星の指が秘所を出たり入ったりし始めた。一本の指が誰も迎え入れた事の無い秘所を容赦無く攻め立てる。中から外へ向かって柔らかい内壁を押し広げる様にしながら何度も往復する。 「アッ……ァァッ、龍星! そこっ」 「あぁ、ココか? 初めてでも良い所は直ぐに解るか。ほら、ココだろう? ココを強く刺激すると……」 「ヒァァッ! イイッ! 気持ち、いいっ」  体の内側のある一点に指先が触れるとビクビクと楔が震えた。軽く押されただけなのに全身に電流の様な悦楽が走る。思わず腰を振り、龍星の指にソコを押し当ててしまう。 「さぁ、指を二本にしてみようか」 「に、二本?」 「四本くらい咥えられる様にならないと俺を受け入れられないぞ」 「四本なんて!」 「無理じゃない。優しく解してやるから力を抜け」  龍星の言葉は本当だった。  尻を高く掲げ、腰を揺らしながら膝が崩れ落ちそうな快感に浸っているうちに秘所を弄る龍星の指は四本にまで増えた。痛みなんて感じる訳が無い。クチュクチュと濡れた音を立てながら秘所が淫らに花開くまで、長い時間を要しなかったのは龍星のテクニックの所為なのか、僕が厭らしいのか……。きっと巧い龍星に抱かれているから僕が感じてしまったのだろう。 「ねぇ、まだ、クチュクチュするの?」  ヌチュヌチュと音を立てる秘所に何か物足りなさを感じてしまい、僕は龍星に尋ねた。  龍星の指が角度を変え、強さを変えながら出入りする度に快感が得られる。でも、何かが足り無い。もっと激しく、もっと乱暴にソコを掻き乱されたい……。そんな淫らな想いが頭から離れない。 「いい具合に蕩けた。トロトロになったココだけじゃなくて真の尖った楔からも熱い蜜が溢れ出て台に垂れているぞ? そんなに欲しいか? 俺が」 「うん……、欲しい。龍星が欲しい。僕の中に龍星を……入れて」  語尾が甘く溶けた。  自ら男を誘うなんて、この上なく恥ずかしい行為だと思うのに止められなかった。相手が龍星だから仕方が無い。グッと秘所を龍星に向けて突き出し、腰をゆるりと揺らして誘って見せた。 「上出来だ」  龍星が満足そうに笑い、スーツを脱ぎ捨てた。そして獣の勢いで僕の腰を掴み、ググッと体を密着させてきた。  作業台にうつ伏せになった僕の腰に龍星の猛った楔が当たった。大きく広げた股の間に入り込んだ龍星が荒い息を吐きながら僕の体を抱え上げた。  次の瞬間――。 「ァァァァァッ!」  僕の体を強烈な痛みが襲った。  体を引き裂かれる様な、そんな激しい痛みだった。爪先から脳天まで、許容範囲を超えた激痛が駆け上がって行く。 「ァァ! ァァァッ!」  いくら解かれたとはいえ、指とは全く違う質量の物に突き上げられ、僕の秘所は悲鳴を上げた。膝が震え、腰が砕けそうになる。 「あぁ……熱い……。熱くて強く締め付けてくる……これが、真か……。俺の、真だ」  龍星の息が耳に当たった。 雄の欲に染まった声は異常な色気と淫らさを持っていて、僕の体を余計に熱くする。  激しく体を揺さ振られ、腹の奥深くまで抉られ続けるうちに、痛みは悦楽へ変貌し、突き上げられる衝動は表現しようの無い悦びとなっていった。 「ァァッ! ァァァッ!」 「真、まこと……」  何がなんだか解らなくなっていく。  ただ、突き上げられる度に嬌声を上げ、止められない喘ぎ声を響かせながら快楽に浸った。 僕の名を繰り返し呼ぶ龍星の声が聞こえる。それに僕は幸せを感じていた。  その幸せの先にあるもの……。  最も高い位置にある愛を掴もうと、僕は龍星の名を叫んだ。 「龍星! りゅうせいっ! このまま、僕、僕と一緒にっ!」 「あぁ、行くぞ……。今度は一緒だ」 「イイ! ァァァッ! アァ――ッ!」  世界が純白の光りに包まれた。  最高の悦楽が身と心を支配する。 「りゅう、せい……」  別々だった体がひとつに解け合い、快感の頂点に駆け上がっていく。その至福の時間に僕は酔い痴れた。 「真……愛している」  遠くで聞こえた言葉に、涙が溢れた。  安堵の吐息が零れる。  そして意識が薄れて行く。 (幸せ……)  心の底からそう思いながら、僕は意識を手放した。

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