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1-6 独活の大木
「このくらいが小手調べでいいと思うけど」
と、マール・キルトンが見せてきたのは、
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“村の南西にある炭鉱付近の原野で毒蛇が大量発生。
通行と搬出に大変な危険が伴うため、毒蛇の除去を依頼。
挑戦者:5名、生還者:0名
王歴1386年現在未解決”
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「これって……3年前だよな」
「ええ……。3年前に5人目の冒険者が行方不明になって、その後は誰も」とため息をつく。
「炭鉱は今もやってるのか?」
「まあ、回り道して運んでるみたいだけど?この毒蛇さえいなければ、交通の便が良くなって、村がもっと栄えるかも……」腕を組みながら、うんうんと女店主は力説する。
「若干難易度は高めかな。毒蛇に噛まれたら、治療しなければ3分で死ぬし」
「え……」俺は息をのむ。
「んーでもー、噛まれる前に両手剣で鎌首をスパーンってやっちゃえばいいのよ!ときどき、はねた蛇の頭に腕を噛まれて亡くなる人もいるんだけどね?それさえ、気を付ければ!」
「ちょっと待った。俺、剣は使えない」キルトンが腕を振り回し、攻略法を語るのを遮る。
「え??」今度はマール・キルトンが驚く番だった。
***
「マジで?あんた独活の大木?」
キルトンは呆れながら、それでも直球で突き刺さる言葉を言った。
「ああ。俺、木こりなんだ。たまに狩りもする。斧と弓と罠なら使えるが……」
「はあああ。そうなんだ。だから、登録してなかったわけね…」
キルトンは一気に萎えて長息する。勘違いとはいえ今まで張り切っていたのに、こちらも申し訳なくなる。
「あなたの体格ならね、騎士だと思ったんだけどね。あたしって職業見分けるの百発百中だから」
とはいっても、俺に声をかけたのは今日散髪したからだろうに。髭がなくなって少しだけ見栄えが良くなっただけで、体格自体は変わってない。
「剣を握ったことすらないわけね?」
「剣、持ってない」俺はこれ以上傷をえぐられるのが嫌でうつむいてしまった。
「……そうなんだ。わかった。ごめんね。勝手に期待しちゃったあたしが悪かったよ。気にしないで?あなたでも出来そうなクエスト、適当に見繕って探してくれるかな?決まったら、説明してあげるから」
キルトンは態度を変えたのか、優しい言葉ながらも他人行儀のようなひんやりするものを感じた。
「ああ、そうするよ」
女店主には失望されたかもしれないが、俺がギルドに入ったのは少しでも多く家に収入を入れたいがため。暮らしを楽にするためなんだ。俺が出来るクエストを探そう、と前向きに考えることにした。
***
3時過ぎ、俺は門限をぎりぎりすぎて山の中腹にある小屋に帰ってきた。
小屋のある山には急な坂はなく、小さくてなだらかな丘に針葉樹林が生い茂る小山となっている。だから、小屋の前まで荷馬車を曳いてくることが出来る。
小屋の前には、まだかまだかとつま先を地面に突きながら俺の帰りを待つカミュが見えた。
俺は、荷馬車から降りると痩せ馬を引っ張って歩みを速めた。
「遅いよ……アレン……」
彼の口の形は俺の名を呼んでいて、駆けだそうとしたがビクッと止まった。
「い゛っ……」
彼が目を見開き、ぎょっとした表情で俺を見たことに気付く。
「?」
「アレン??」カミュは歩きだそうとしたが、その場にへたり込んでしまう。
「どうした??」
俺は馬の手綱を捨てて、相方のもとに駆け寄る。俺の顔を見て、腰を抜かしたのだろうか?驚かすつもりだったが、笑えない展開だ。
「……その顔」
「驚いた?」俺は得意げにしゃがみ込んで、カミュの顔をのぞく。
「ん……おひげ……」
パクパクと口を動かすも言葉にならず、震える手で俺の頬にそっと触れた。
「八百屋のおかみさんに床屋の無料チケットもらってさ、ただで剃ってもらったんだ。髪も切ってもらって、さっぱりしたよ」俺はにっこりと笑って、カミュの頭を撫ぜた。
「……」カミュは顔を真っ赤にした。
「似合うかな?」
「……うん。似合うよ」心なしかか細い声で彼は言った。
***
「今、お風呂のお湯、沸かしてるんだ。ご飯食べたら入ってね」
今日買ってきた食材からどれを使おうか吟味しながら、カミュは俺の方を見ずに言った。
「ああ。何か足りなかったものはないかな?」
手製の革張りのソファーに横になって、靴下を脱ぎながら俺は訊いた。
「ないよ。いやむしろ、メモに書いてあったより多いよね」
カミュは感心したようにつぶやく。
「……安かったんだ。だから、干し草とかも大目に買えたよ」
これで馬も元気になってくれればいいのだが。
「そう。それは良かった」
「3時過ぎたのは悪かったな」
掛け時計は3時半を回っていた。到着したときも門限と言われた3時を過ぎていたはずだ。多少過ぎたってその後予定があるわけでなし、どうってこともないのだが、約束は約束だ。素直に謝っておく。
「うん。待ちくたびれたよ。でも、そんなに遅くなかったじゃない。僕は怒ってないよ。心配だっただけ」カミュは顔を伏せたまま上目遣いで俺の方を見やる。優しさが込められているが、不安げな瞳だった。
ほんの半日一緒にいなかっただけなのに寂しかったのだろうか?
「心配って。俺は子供じゃないし、用事くらい済ませられるさ」
「うん。わかってる。……余計なことをやってるんじゃないかってね」
「余計なことって?」俺はむすっとした。
「ごめん。ご飯の準備まだ少しかかるから、休んでていいよ」
「ああ」納得がいかなかった。
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