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4-6 しゃぶる★

***  窓に当たる水滴の音。外は日も落ち、しとど雨が降っている。  薄闇の中、ベッドに座る俺の腰部で上下に動く下顎。唾液と我慢汁とがぬらぬらと交じり合って、甘く気怠い淫靡な匂いを醸成している。  ぺちゃぺちゃと音を立てて、俺の陰部をしゃぶる美少年の頬が、蝋燭のほのかな明かりに照らされる。弾力のある頬の内側と俺の亀頭がぶつかって弾けるときの衝撃が体内に伝わる。  先ほど嫌というほど舐めたてられた玉袋に細い指がまとわりついて、慣れた手つきで擦り合わせてくる。俺の射精を促そうと、玉の皴を広げようとするときの快感がたまらない。 「う……」  カミュの吸い上げとともに、仰け反りそうになるのを必死でこらえる。  そそり立つ陰茎に細い指があてがわれ、浮かび上がった血管に沿って柔らかい舌が這い上っていくと、今度は唇を使って亀頭を丹念に攻め始める。俺は口を開け、はっはっと浅い息をついている。カミュは上目づかいで俺を見る。色欲にまみれた俺と目が合った。 「気持ちいい?」カミュは亀頭から少し口を離して囁く。 「……」  瞼を閉じれば瞳が裏返りそうなほど、快感が背筋を走る。射精を耐えるのがやっとなくらい、俺の海綿体は鋼鉄のようにがちがちに固まっている。 「気持ちいいんだね……良かった」  カミュは微笑むと俺のものを強く握りごしごしと擦り上げて、先端をぎゅっと舌先で押した。 「うるさい……うっ」  体の芯から熱いものがこみあげてくる。手を添えているわけではないのに、カミュの攻め立てはやまない。亀頭を弄んだかと思えば、自分の咽喉まで一気に逸物を押し込んだ。 「あ……うう」  限界に達した俺は最後の理性を振り絞って、カミュの頭を押しのける。 「つぅ……」  自分の手で揉みしだくと、尿道を突き上げて白い液がどくどくとほとばしった。天に舞い上がるような心地だ。手探りで枕元にある白布を掴むと、汚れた腹部を拭う。 「ああ……」俺は狭いベッドに身を横たえ、束の間の安息を楽しむ。  ベッドのわきに跪いてブロージョブしていたカミュは、つと立ち上がり、よだれを指で拭いながら大の字になった俺を見下ろす。余計な筋肉も脂肪もついていない細い体が闇に白く浮かび上がる。  精を噴き出した俺自身は、上体にぴたりとくっついてややくたっとしていた。 「……口に出してくれてよかったのに……」カミュは惜しそうに呟いた。 「……ふぅ……」  事が済むと俄然シャワーを浴びたくなるが、カミュに濡れタオルを渡される。俺はタオルを素直に受け取ると、体の汗をぬぐった。 「お水飲む?」 「ああ……くれ」  水差しより注がれたコップを受け取って、飲み干すと、俺はカミュの手を引く。 「ほら、もう終いだ。寝るぞ……」 「今日は二日分しゃぶれっていうから、期待してたのに、意外に早かったね」などと言う。 「……俺を怒らせたいのか?」無駄口を叩くなと言いたい。 「いや、朝帰りしてどんな罰を与えられるかと思ったけど……第2ラウンドってないの?」 「第2ラウンド?」俺は訝しげに顔をうかがう。 「僕も……したいよ」  カミュはうつむいてもじもじと言った。下肢が疼くのだろう。  だが、それって罰じゃなくないか?朝帰りの罰でセックスしてお前を喜ばせてどうする。 「馬鹿言え。全部出しちまった。今日はもう終わり」  俺は相方の腰を両手で引っ掴むと、無理やり隣に寝かせた。そして、さっきまで俺のものを一生懸命咥えていた可愛らしい口に指を突っ込む。カミュは俺の指をくわえながら、顔を俺の正面に回した。 「ありがとな……」  優しく抱擁してやると、少し残念そうな顔をしたがすぐににっこり笑った。 「たくさん奉仕できた?」 「ああ。前よりはうまくなったよ」 「前よりはって」カミュは閉口する。  まあそうだ。俺が完全にイってしまっているのを、カミュは見ているわけだし、過小評価してもすぐにばれる。だけど、俺は本音は言わない。言うとあいつは図に乗るからな。 *** 「アレン……ここいつも割れてるよね」  汗のひかない俺をタオルで拭いながら、カミュは俺の腹筋の谷間をなぞる。筋肉の鎧は、俺の体のラインをくっきりと浮かび上がらせる。光にも闇にも溶け込んでしまいそうなカミュの体とは真逆だ。 「僕、こんな体になりたかったな」  胸筋とその上の胸毛を弄りながら、カミュは思いがけないことをつぶやく。 「嘘だろ?」俺は着衣のままのカミュのうなじに軽いキスをしながらそう言った。 「ほんとだよ。アレンみたいに筋骨隆々になって強くなりたいよ」 「ん……俺は今のお前が好きだけどな」  カミュが俺みたいになる?そう考えただけで、俺は嫌悪感を催した。俺みたいな硬い体になってしまったら、抱き心地が損なわれる。体から放たれる甘い芳香が、俺のようにけもの臭くなってしまうかもしれない。それに、カミュの体は鍛えてどうにかなるような丈夫な体ではない。人にはそれぞれ才能と、伸びしろというものがある。カミュがいくらトレーニングしたところで、望むような筋肉はつかないだろう。 「そう……?」  カミュが俺の胸に顔を寄せると、頭髪の匂いが俺の鼻腔をくすぐる。美容室で購入しているリンスの匂いのせいか、さっき抜いたばかりなのに劣情で下半身がピクリと動く。あいつの魅力のせいで、第2ラウンドに突入できそうな俺を理性が雁字搦めにする。 「カミュ……そういえばさ……」 「なに?」 「お前の名前…苗字って前に訊いたっけ?」 「苗字??」カミュは戸惑い、少し間があったが、 「カミュ・イーグルだよ」と答えた。 「バカ。それは建て前だろ?」  建前上、俺たちはイーグル兄弟(カミュ曰く異母兄弟)としているが、俺が知りたいのはカミュの本当の苗字だった。以前、聞いた気がしたが、思い出せなかったのだ。 「僕の苗字なんて聞いてどうするの?両親は死んで、僕は天涯孤独なんだ。イーグルでいいと思うけど」 「まあな……」親は死んでいても、親族がどこかにいるかもしれないし……と思う。 「レイティスだよ。カミュ・レイティス。育ての親がそう言い残して死んだんだ」 「え……育ての親?」死んだのは育ての親?初耳だった。どういうことだ? 「カミュ・イーグルじゃいけない?」 「いや……」 「もし、本当の親が見つかったら、アレンは僕を手放すの??……君のものなのに?」  カミュは胸毛を指に挟み、つねりながら声を荒げた。 「手放す?何言ってるんだ。そんなわけないだろ。俺たちはイーグルだよ。ごめん」  俺は慌てて言った。毛を毟られずに済んだ。 「アレン。僕たち、家族だよね」 「ああ……そうだよ。兄弟だ。変なこと訊いて悪かった。今日はもう遅い。寝よう」 「……うん」  俺は疲れ切っていたし、カミュがどうして激昂したのか理由もわからなかったが、何か怖いものに触れてしまった気がして、目を閉じた。姑息にもこのまま眠ってしまおうとしたが、なかなか寝付けない。カミュは俺の顔を覗き込むように体をずらし囁いた。 「アレン、僕は……君と兄弟ではなくて……××になりたいんだ」  胸のうちに熱を帯びるのを感じた。

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