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8-2 魔法雑貨屋
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屋台で買ったイカのゲソ焼きをしゃぶりながら、俺は市場をぐるりと回った。通常営業している店は半分くらいで、あとは店を閉めて店先でビールや酎ハイ、そのつまみなどを売ったり、子ども向けのゲームが出来るような屋台を開いていた。
それらは射的やら輪投げ、くじ引きなどだった。屋台の前には村の子供たち5、6人が群がり、何かあるたびに喚声を上げていて、やたら楽しそうに感じる。
くじ引きでひときわ大きなクマのぬいぐるみの景品を当てた女の子が、嬉しそうに飛び跳ねて保護者と思われる男性に手を引かれていった。ほほえましい光景だった。
広場の一角に設けられたビアガーデンのテーブルを一つ陣取って、俺はげそ焼きをしゃぶった。ソイソースが十分にしみ込んでいて、噛めば噛むほど旨味が口の中に広がった。
ここは内陸なので、加工されていない海産物が食べれることは滅多になかったし(恐らく魔法で氷漬けにして運送したのだろう、それなりの金額だった)、遠く東の島が特産のソイソースは、こちらではなかなか入手できないものだったので、俺はカミュも一緒に食べられたらよかったのにと、ふと思った。しかし、手は止まらずに完食。ふぅとため息をつく。
さっきの親子連れ。5歳くらいだろうか?あんなに大きなぬいぐるみを抱えて、次はどこに行ったのだろうな。母親がいなかったが、祭りには一緒に来なかったのだろうか?
カミュによれば、俺ももう28歳である。そろそろ身を固めてもいい時期だと思う。あのくらいの女の子が娘でも、何の不思議もない。記憶のない俺だが、今までにカミュ以外の人との恋愛はあったのだろうか?女に恋をしたことはあったのか、わからない。わからないけど……
子供が欲しい。暖かな家庭、団らん。安息が欲しい。
粗野に見える俺でも、そう考えることはよくあった。相方のカミュが何を考えているのかは知らない。けど、まだ16歳だというし、先のことは考えていないだろう。あの子はまだ、結婚が何たるか知らないだろうし、たくさん恋愛をして失敗もできる年頃だ。でも、俺はそろそろ家庭を持ちたい。安定したい。
それに、カミュだって相手が俺でいいのだろうか?異性を好きになって、結婚して子供を作る、そんな彼の権利を俺が奪ってしまっているのではなかろうか。そんな考えが脳裏をよぎった。
「僕をアレンさんのものにしてください。お願いです。見捨てないで」
あの時の言葉が突き刺さる。身寄りのないカミュには俺が必要だった。だが、記憶をなくした俺にもカミュが必要だった。二人は互いに依存しすぎているのではなかろうか。
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「おい!にーちゃん、一人かい?」
不意に隣のテーブルから話しかけてくるものがあった。
「ひょっとして競技に出るヒト?」
腕っぷしの強そうな、横にせり出した体格の男二人が声をかけてくる。
「ああ、そうだが」
さきまでイカのげそ焼きが入っていた空の容器を見つめながら、俺は爪楊枝で歯間を掃除していた。
「俺達もそうなんだが、さっき耳寄りな情報を聞いたぜ」
「ん?」
俺は不審そうにそいつらの顔を見やった。顔が似ているので兄弟と思われる。大酒を飲んだのか強烈な匂いがして、顔をしかめた。
「夏祭りの観光に来た連中がよ、村に入る途中で見たそうなんだがよう、村人どもが空き地に藁を大量に持ってきて敷き詰めていたらしい」
「へぇ」
酒の臭いを振りまく男どもをはねのけたいが、我慢してその先を聞く。
「俺らは競技がそこで行われるんじゃないかと踏んでいる。しかもなあ、荷車にはたくさんの巨大なカボチャが積まれていたそうだ。にーちゃんも気になるだろ?」
「なるほど……」
俺は相槌を打った。だが、相手は酔っ払いである。この情報を信じすぎない方がいいだろう。そもそも、これから競技が始まるというのに、酒に酔いつぶれているとはなんという体たらくだ。
「ま、知っていたところで、優勝するのは俺様だがな」
「いや違うよ。アニキ、優勝するのは俺だ」
似たり寄ったりな二人は、くだらない口論を始め、エスカレートして拳で殴り合いを始めた。衆目が集まる中で、俺は巻き込まれないようさっさとビアガーデンを離れた。後で聞いたことだが、二人はあの後失格となったそうである。
***
一方そのころ、カミュは村の中心地からやや外れた横丁にある魔法雑貨屋の前に立っていた。祭りの喧騒は鳴りを潜め、いつも以上にひっそりしている。だが、店の方は平常運転だ。
扉を開くと妖精の金細工が施されたドアベルが鳴り、来訪を告げる。店内はやや薄暗く、甘いお香の香りがした。
「ごめんください」
「いらっしゃい。あら~、カミュ君。久しぶりだね」
優しそうな声とともに中年男性が顔を出す。どじょう髭を生やした、細身のおじさんが、この店の主人だ。
「ノルマンさんお久です。お祭り、とても賑わってますね」やれやれです、とでもいうように、カミュは苦笑する。
「あーね、まあうちは関係ないけどね。ところで、お探しのものが決まってるなら、探してあげるよ?」
「え?いいんですか?でも、恥ずかしいなあ?」
「ん?お探しの物は、恥ずかしい代物?媚薬かい?」
「ち……違うよ!!」カミュは大きく首を振って否定した。ノルマンはにやりと笑う。
「君の旦那さんには必要なさそうだけどねえ」
「え?」カミュは咄嗟に顔を赤くした。
「あ?適当に言ったんだけど図星かい?君、恋人いるでしょ」
「旦那さんって……ノルマンさん」両手に顔を埋めて、体を震わせるカミュを店主は笑いこける。
「まあ、そんなことはいいんだよ。今日は媚薬じゃないんでしょ?」
「ええ……、探してほしいのは、このページの……あ、やっぱり書き出しますね」
店のカウンターに置かれているメモ用紙を一枚引き抜こうとして、店主に止められる。
「無駄だよ。材料で何しようとしてるかわかっちゃうもの。そのページ見せてごらん?」
「あ、はい……」カミュは恥ずかしそうに魔導書を開いて差し出した。
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