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*-9 契約
***
それから2か月して、ある程度予想はしていたが危惧していたことが起きた。俺の体が、性欲という糞くらえなものに衝動的に突き動かされて、ある夜小屋を出ようとしたのだ。
寝室のベッドで横になっても一睡もできない。
ペニスが熱く滾り、何日も前から自慰をしても抜き足りず苦しい。眠りについたと思えば、夢の中でヤギのような角の生えた淫乱な女に騎乗位され続けて夢精こそすれ、夜が明けると限りない虚無感に襲われる。淫夢が現世 にまで後を引く。そんなことが二週間ほどあり、女を抱きたいという本能に理性が打ちひしがれていた。
思えば海を渡ってから、性欲が一段と強くなった気がするが、記憶を失う前の俺もこんな頭抜けた精力の持ち主だったのだろうか?自分が怖くなる。
情けないが一晩だけと、俺はがばっと起き上がると寝室を出た。ダイニングの暖炉の火は消えており、空気がひんやりした。暗がりの中、壁に掛かっていたコートを羽織り、財布を取って外に出ようとした。が……
「どこに行くの?」ソファーから上体を起こすカミュの影が浮かびあがる。
「……ちょっとな」起きていたのか。いや、俺の音で起きたのか?
「言って?」
カミュは手早くろうそくに火をともし、すっと玄関まで来た。コートをぎゅっとひっぱって、俺を振り向かせる。
「野暮用だ。すぐ戻る」
「……何をしに行くの?」野暮用だって言ってるのに、行先を訊ねるなんてとんだ野暮だ。
「お前は知らなくていいことだ」ガキにはわかるまい。
「駄目だよ。今夜は駄目」
「今夜はって。明日ならいいのか?」
「あ、明日も駄目だよ。どこにも行かないで?……僕を一人にしないで!!」
カミュの語調が強くなる。
「明日、早朝には帰る。少しの間だ、我慢できるだろ」
相手はコートから手を離さない。俺はそれを無理やりはがそうとする。
「……お……女だね?買う気なんだ……」恐れに目を開いて俺を見上げるカミュ。
「子どもが知ったことか」女を買うなんて、知った風に言いやがって。
カミュがあの年で一丁前に買春のことを知っているなんて、そのこと自体を知りたくないような俺がいた。
「お願い。行っちゃいけないよ!お願いだから僕を一人にしないで。寂しいのは嫌だ。後生だから、どこにも行かないで!!」
カミュがドアの前に割り込んで立ちふさがる。そして、両腕を戦慄かせ俺にすがるように言った。
「いいからそこをどけ。お土産を買ってきてやるから」
「そんな問題じゃない!!」カミュが叫んだ。俺は少し驚くがドアノブに手を掛ける。
逸物が腫物のように滾っており、早く融かしてもらいたいと、そのことしか頭になかった。
「転ばせてでも行くぞ?痛い目に遭っても知らんからな」俺はカミュの片腕を掴んで怖がらせるために大きく揺らした。
「……アレン……さん。わかった。わかったよ」カミュは泣きそうな声で言った。
「いい子だ。さ、そこを通してくれ」俺はさっと手を放して、駄々をこねる子供が譲歩するを待った。
「僕が相手をする……」カミュの潤んだヘーゼルの瞳が俺をじっと見つめている。
「…………は?」
***
俺とカミュは寝室のベッドに隣り合って座っていた。
カミュに自分が相手をすると言われて、俺は一瞬何のことだか分らなかった。「女の人の代わりになる」と言われたが、「お前はまだ子供で、しかも男だ。愛せない」と返してやった。そしたら、「やってみなきゃわからない!」なんて生意気なことを抜かしやがった。上等じゃないかと思って、俺は強引にカミュをベッドに引き入れたのだ。
「お前、本当にやる気なのか?やめるなら今のうちだぞ」
「そもそもこれから何をやるのかわかってるのか?」
俺はしつこいくらいに何度も訊いた。カミュは沈黙していたが、ふと口を開いた。
「……アレンさん。この前、泉で僕にキスしたよね」
「……」俺は若干顔をしかめた。
「なんでキスしたの?」
「……」
「僕のこと好き?」
カミュは俺の手にそっと小さな手を重ねてくる。
「カミュ……」ためらって言葉が継げなかった。
あの時は本当に気まぐれのような、自分でも何をしているか説明がつけられなかったのである。
「少しでも好きなら、僕……いいよ。抱かれても……」
「ん……」
俺は顎をこすった。不精髭が指に心地よく当たる。
「アレンさんのものになるよ」
「お前が、俺のものに…なる……」
その響きが心に染みていった。
「僕の体、好きにしていい。だけど……」カミュは口ごもる。
「……だけど?」
「アレンさんはもう誰のものにもならないで?」恥ずかしそうに顔を真っ赤にして言った。
「わかった。お前の体が俺を受け入れられたらな。約束する。……だが、俺にも条件がある」
「……なに?」カミュは不安そうに俺の顔を見上げた。
「……」俺は拳を口元に当てて思案顔をしていた。
「な……なに?アレンさん」
「毎晩しゃぶれ」
「え?」俺がぼそっと言ったためか、カミュが訊き返す。
「嫌だとか抜かすなよ?これからやることがわかってるマセガキなら、俺の言ってることわかるだろ。毎晩しゃぶれ。毎晩だ!」俺はカミュの顎をぐいと上げて乱暴に言い放った。
「しゃぶ……」カミュは目を白黒させ、二の句が継げなくなっている。
「今からだ!!」
俺は下着を脱ぎ捨てると、峻厳にそそり立つ充血した逸物を彼の前に押しやった。
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