34 / 108

*-10 大失敗★

 その夜のことは、今でも思い出すだけで顔から火が出るような、恥ずかしい夜だった。おそらく、カミュにとってもそうだったろう。文筆を生業とするものにでも書かせれば、初々しいやり取りを脚色して冗長で好色に著述できるのかもしれないが、俺は細かいことを書く気がない。  とにかく、一言で言うなら、その日は大失敗だった。俺は男児を抱いたことがないし、カミュはセックスすらしたことがなかったのが要因だろう。  俺がくわえろと言ったペニスを、カミュはいつまでたってもぺろぺろと子犬のように舐めているだけ。無理やり口に入れさせたら、大きすぎたのか歯が当たったので、俺は思わず手を出してしまった。 「歯を立てるな」と怒鳴ると、カミュはしゅんとなって亀頭を口に含んで湿らせるくらいしか出来なかった。「もういいから、入れさせろ」と相手の体のことを考える余裕もなく、濡れてもいない後孔に挿入を試みる。  カミュも俺が騎乗位が好きなのを知ってか知らずか、俺の腰にまたがってペニスを肛門にあてがうのだが、大きすぎて入る気配もない。淫乱な女の場合、フェラを終えたころには下肢に愛液が流れだしていて、アワビのような陰部がすでに熟れて滲んでいるのが常だが、この少年は皮の厚い青い瓜だ。まだ硬くて食いようがない。  それでも少年は、ローションなどの潤滑油もない状態で、菊の花のような窄まりを俺の陰茎に沈めていこうと必死だった。やり方のわからぬ者同士が、気持ちよくなれるはずもなく……。 「い゛……」  陰茎で唯一濡らされていた亀頭が辛うじて彼の肛門に収まったとき、何かが引きつるような嫌な感じがした。薄暗闇に蝋燭の光に照らされたカミュの顔を見ると、眉をひどくしかめていて、泣きそうなのを必死でこらえていた。 「……く……苦しい……」 「先っぽは入ったぞ……」俺は坦々と言った。 「う……うう……あ……アレ……い……いた…い……」 「ん?」  様子がおかしいのに気づくが、初めてならこんなものかとも思う。 「いたい……いたい……痛いよ……ううう……だめ……アレ…ンさ……あああ!!」  カミュは膝を立てたまま動かず、手を腹の上で突っ張って、苦しそうに悶えていた。細い体を全身震わせて、なおも奥に入れようと踏ん張っているようだったが、歯を食いしばって歪んだ顔に両の目からは大粒の涙が流れている。 「おいおい……そんなんじゃ続きが出来ないじゃないか」  俺が不満をもらしたとき、陰茎に液体がさらさらと流れたのを感じた。粘性の少ない液体だったので何だろうと思って手で触れて明かりの下で見ると、それは紛うことなき血液だった。さっと血の気が引いた。カミュの肛門が出血している。それも俺の腹の上にかなりの量溜まっていた……。 「お前、中から出血してるぞ」  俺は慌ててカミュの腰を両手で抱き上げると、隣のベッドに寝かせた。ひっくひっくと、言葉も継げずに泣いているカミュの肩に俺は手を掛けた。 「そりゃ痛いだろ。無理するな……子どもなんだから」  枕元にある自慰用の白布で腹に広がっていた血液を拭う。鮮血ではなく、暗い色をした血だった。静脈を傷つけたのだろう。 「……こ……子どもじゃない。僕はもう子どもじゃない!!アレンさんの相手ができる!」  まだ痛むだろうに、少年は尻をさすりながら、目を吊り上げて俺に反抗する。 「出来なかったじゃねーか。……お前一体いくつだよ」  話しぶりから大体、14、5くらいと見ていた。痩せぎすなので、実年齢よりは幼く見えているだけだろう。 「……じゅうろく」 「嘘つけ。まあいい。子どもなのはわかっていた。……俺が村に行くのを阻止したくて、こんなことをするなんて、お前はバカだ」 「バカじゃないもん!!」 「バカだ!!」 「アレンさんのほうが大バカだ!!」 「なんだと?」  俺はカミュの方に身を乗り出して、両腕を掴んで覗き込んだ。俺が腕力に物を言わせてカミュに掴みかかると、相手は途端に委縮して絶望したように脱力する。か弱いものが縮み上がるのを知っているくせに、それをやって後悔する俺の中途半端さったらない。言い争っていたカミュは急に声を和らげた。 「ごめん。ねえ、聞いて?……今日はいきなりだったから、準備が出来なかった。言い訳になっちゃうけど。僕もその……初めてでやり方がわからなかったし、痛いだけだった。アレンさんにも迷惑かけたよね。それについては謝る。本当にごめんなさい」 「ああ」 「僕はバカかもしれない。でも……約束したことは守りたいんだ。僕がアレンさんのものになったら、もうどこにも行かないと約束してくれるよね?」 「ああ、お前が性処理してくれるならな」俺はまともにカミュの顔が見れずに目をそらして言った。 「……もう一度チャンスをください……」カミュは、俺の前に跪き、顔を真正面から覗き込んで懇願した。土下座までしようとするのを俺は手で制する。そこまでしたら逆にドン引きだ。  一体どんな理由があって、彼は俺に抱かれたいなんて言うのだろう?  “俺のもの”って、どういうことだ?それはつまり、俺の奴隷になりたいって意味なのだろうか?俺がいかに精力絶倫だからといって、生殺与奪を握るような関係を望んでいるわけではない。  その時の俺は、精を放てる肉さえあれば、物理的には誰でもいいような状態だった。その相手が毎回違っても構わない。同じでも構わない。ただ、セックスの相手が未熟な体の稚児であるよりは成熟した女の方が好ましいことくらいは考えた。  その一方で、カミュに対して如何様にも表現しえない不思議な気持ちを抱き、悩ましさを心の底に抱えているのは事実だった。俺が泉でカミュの裸を覗き見し、接吻するに至った根っこの部分。それが何なのか理解するには、長い月日を要した。

ともだちにシェアしよう!