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9-1 表彰金

***  寝言のことは上手くはぐらかされて、カミュに促されるまま、俺は着席し食事を貪り食う。あいつは「よっぽどお腹が空いていたんだねー」と驚きながら俺を見ている。いつも俺は朝早く起きるが、前の晩に彼が用意してくれた弁当を持って仕事に出かけるので、朝ごはんも林の中でちゃんと食べている。昼時まで眠っていたら、そりゃ腹も減る。 「あのさ……アレン」分厚いベーコンを口に放り込みながら、バゲットをちぎっている俺にカミュは気後れしがちに話しかける。 「んあ?」こんがり焼けたベーコンから肉汁が滴り落ちるのがもったいない。 「今日も……村に行くんでしょ?」 「……ああ」  上目遣いで話してくるカミュに、俺は少し戸惑った。この話はまだしていなかったが、昨日のうちに村人との話で知っていたのだろう。 「聞いてたよ。村長から表彰があるって……」  俺が祭の最中にスリを追跡し、格闘の末に逮捕したことで、村の代表者である村長から近いうち表彰があるだろうとの話だった。その際には、昨日の大会の賞金には及ばないが少なからず表彰金が貰えるだろうことも併せて聞いた。 「表彰は明日以降だろうが、まあ今日行って、村長に挨拶くらいしてもいいかな」  昨日は祭りの当日とあって、忙しい村長とは相まみえなかったが、忘れないうちに俺の手柄をアピールしておいた方がいいだろう。 「そうだね……」 「お前も行くか??」 「え……」カミュはスープを掬うスプーンを止めて、俺を見上げた。 「ぼ……ぼくも?」びっくりして目を見開いている。 「お前、いつも村に行くのは一緒じゃなきゃ嫌だっていうだろ?」  俺はカミュを誘った。表彰金がもらえれば、追加で買い物ができるし、カミュの欲しいものを買ってやってもいいと思っていた。 「僕は、いいや。アレン一人で行ってきなよ。挨拶だけでしょ?すぐ戻ってくるんでしょ?……昨日買い出ししたばかりで食料はあるし、僕もほかにやることあるし……」 「そうか?」 「うん。借りた本、全部読まないと」  5冊の大きな本はソファーのサイドテーブルにはみ出して積まれている。バランスによっては崩れそうだ。一番上の本は昨日スられて俺が獲り戻した青い装丁の魔術書だった。その本以外は食卓の半分くらいのサイズがある。持ち運びしやすいよう分冊すればいいと思うかもしれないが、大きな本には絵が描かれているのだという。伝説上の動物や薬草の種類、魔法陣などが大きな紙面に詳細に描かれているのだとカミュは教えてくれた。 「お前も大変だな。わかった。一人で行くよ。何か買ってきて欲しいものはないか?食料以外で」 「……表彰金で買うつもり?お金は節約した方がいいよ」と、カミュは大人じみて真面目腐ったように言うので、俺は苦笑した。 ***  痩せ馬にまたがり村に行くと、俺を見た村人たちは集まってきて早速村長の家に案内された。だれもが、昨日の事件を語れるくらいに鮮明に覚えていて、カボチャの競技場で観戦していた村長自身も俺を快く出迎えてくれた。村長は小柄だがロマンスグレーの品のよさそうな初老の男性だった。  応接室で話を聞くに、昨日捕まえたスリ犯は隣町で暗躍していた窃盗団の一味だったという。事情聴取の最中だそうだが、一連の事件のしっぽを掴んだということで、町長にも話が伝わっている。どうやら、そちらでも俺に褒賞を与えたがっているということだった。これはとても耳寄りな情報だった。褒賞金はいいから、何か街中で歩合のいい仕事につかせてくれれば、今より生活も楽になるのではないか、などと腹のうちで考えていた。  結局、村では大々的な表彰は行わず、応接室で手書きの表彰状と30Gを手渡された。地味なものだったが、これはこれでよしとしよう。町長から話が来るかもしれないし、と俺は村長と握手をし礼を言ってそそくさと村長の家を後にする。  ……後にしようと思ったが、家の前には人だかりが出来ていた。そして、一番前にいた困り顔の爺さんとその娘と思われる若い女が俺に近づいてきた。 ***  ロディに乗って俺は小屋に戻ってきた。村を出たのは3時前だった。馬車ではないので4時前だろう。まだ外は明るかった。小屋の近くまで来ると、変な物音がした。  ——ん?狼か?いや、小屋の中から吠え声がする。しかも一匹ではない……。  どうしたものかと怪訝そうにゆっくりと小屋に近づくと、 「あ……わ……や……やめて……いや!!」とカミュの甲高い声がした。  俺は慌てて小屋に飛び込んだ。すると、薄茶色の大きな塊が何頭も部屋の中を駆け回り、窓辺の椅子に立ってカーテンを掴んでいるカミュに寄ってたかって吠えているところだった。 「な……何してるんだ?カミュ……。てか、お前ら……ラド!!リバ!」 「これ……なに??」カミュは震えて、涙ぐんでいるが、 「これって……俺が知りたいよ。レトにラブ!!」俺が名前を呼ぶと薄茶色の毛の塊は俺の周りに集まってきた。ズボンを引っ張って遊びだすが、わしゃわしゃと撫でてやるとくーんくーんと鼻を鳴らし始めた。 「ルーまでいる。……しかもこいつら、透けてるぞ?」俺は犬たちの首を掻いて、落ち着かせてやりながら、椅子の上で縮こまっているカミュを見据えた。 「う……う……」カミュはまだ椅子の上で怯えていた。

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