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15-8 手計失敗?★
「アレンさん、一体……どうしたの??」
カミュは慌てて、アレンの背中をさすった。体が熱を持っている。
「わからない……けど。うう……」火照った体に自分でも納得がいかない。立ち上がろうにも目の前がくらくらして、テーブルのどこを掴めばいいのかもわからない。
——は?僕、何かいけないもの飲ませちゃったかな……。
カミュはナップサックの中の箱を見ようと手を伸ばすが、アレンが不意に足を伸ばしたため、かけてあった椅子ごとガタンと倒れた。荒い息を吐いてひどく苦しそうだ。ワインに入れたのは粒状の薬で、そっちは軽い睡眠導入剤だ。服用後30分ほどで効果を発し、自然な眠気とともにベッドに入って穏やかに眠るはずだった。こんな状態になるわけない。用量を間違えた?まさか、死んだりしないよね??
「ア……アレ」
前後不覚で丸テーブルをひっくり返し、地面に倒れこむアレン。皿の割れる音が響く。カミュは助けるために手を差し出したが、その手に口を寄せ淫らにキスをし始める。
——え??
「体が熱い……。ここが……」
羞恥に赤面したアレンの視線が下腹部に向かう。
——えええ??
見覚えのある膨らみが、ズボンの中で凛々と存在を主張していた。アレンはカミュの肩に手を回すと、額や頬、鼻の頭に夢中でキスをし始める。ちょ、ちょっと待ってと、愛撫を手ではじくと、抱かれた体はそのままに足を伸ばして爪先でナップサックを掴まえた。
「アレンさん、ちょっと待って。お願いだから」
「……どのくらい待てばいい?」と、彫りの深い顔を悩ましげに歪め、目を潤ませてカミュを覗き込む。
その間にもシャツに手が伸ばされ、第一ボタンは外されてしまった。すかさず鎖骨に口づけされる。
「ほんのちょっとだから、待って!!」
いつもより粘っこい愛撫のせいで、袋を開ける手に力が入らない。おまけに首筋を舐められて、「ひゃん」と鳴いてしまうと、アレンはそれがお気に召したようで羽交い絞めにされて、胸元を弄りだした。
やっとのことで取り出した箱には、“睡眠導入剤”と書いてある。押し倒されたまま用法を確認する。間違いない、これを飲ませたはずなのに、どうして?
——まさか……
カミュは箱に向かって短く詠唱する。魔術解除の呪文だった。すると、箱の表面から白い煙のようなものが一瞬出たかと思うと、ラベルが剥がれ落ちた。
——は……はかられた……。
睡眠導入剤というラベルの下には、ピンク色の丸みを帯びた文字で“♡催淫剤 ♡”と書かれていた。用法の部分も本来のものに変わっている。
……魔法糊 だ。魔法糊で貼られたモノは周りと区別がつかないくらい馴染んでしまうという。これを使って催淫剤の薬箱に睡眠導入剤のラベルを貼り付けたのだ。ノルマンの店のカウンター脇に常時売られている、安価な魔法糊ごときに騙されてしまった。ノルマンのしたり顔が目に浮かぶ。くっそ!!絶望感に浸りながら、カミュは愛撫をやめない男の背の向こうに箱を持って効能などを読んだ。
“
♡効能・効果♡
精子・精液の製造・分泌スピードが通常の約5倍に増幅。
性感帯の鋭敏化。空腹感、倦怠感の無知覚。性欲増強♡精力絶倫。
《冷え切った関係もこれで復活!!》
♡用法・用量♡
次の量を水又はお湯で服用してください。
1回1匙。1週間に1回。
♡注意点♡
効き目には個人差があります。
効果時間は3時間から3日間です(当社調査)。
1週間経っても鎮まらないときは魔法専科の病院で診察を受けてください。
心臓病、妊婦等、持病の方は使用をお控えください。
本人の同意なく、薬を食品等に混入し故意に飲ませないでください。
”
——お節介にもほどがあるわー!!ノルマンさんのバカヤロー!!
ふるふると震えながら箱を投げると、同時にアレンに抱き上げられた。
「もう待てない。ベッドに行こう……」
「いや……ああ……」
そんな気になれない。カミュは首を振った。薬の力でのぼせ上ったアレンに犯されたら、どうなってしまうかわかったものではない。アレンを部屋から出さないことには成功しそうだが、自分はアレンを眠らせて外に出なければならないのだ。もし、薬の効果が3日近くも続いて、アレンが飲食を忘れて腰を振り続けたら、窃盗団を捕まえるどころの話ではないし、僕自身の生命が危ぶまれる。
こういうのを『ミイラ取りがミイラになる』なんて言うんだっけ?違ったっけ?って、それだけはなんとしても避けたい。
「今日はする日だろ?俺もさっきまでは乗り気じゃなかったが、下がこんな状態じゃ我慢できない」
アレンはカミュの額にキスを落とすと、抱え込んだままダブルのベッドに豪快に凭れこんだ。羽綿が舞うのも気にせずに、アレンは膝の上にカミュを座らせて、唇を顔に沿わせてゆく。耳朶から頬に、鼻先から顎へ、そして瞼に接吻する。カミュがすっと目を開けると、いつにもまして切なげな面持ちのアレンが黒い瞳で見つめている。黒の中に混じる緋の色が、炎のように揺らいでいる。欲しくて欲しくてたまらないと、目が口ほどに語っている。
カミュのシャツを脱がすと、アレンは二つの愛らしい突起を指でくりくりと弄りだした。赤みを帯びたそれは、意思とは裏腹にぴんと上を向き、男の愛撫を喜んでいるようだ。
「ほら。体は正直だな」
アレンは嬉しそうに、少年の心臓の上にある小さな果実を口に含んで下で舐った。
「あ……ああ……」
——気持ちいい。乳首を吸われてこんなに感じるなんて……
そうだ。僕も、セックスは一週間ぶりなのだ。薬を使っての行為なんて不本意だけれど。感じやすい体を刺激されて、怒涛のような奔流に身を任せることしかできなかった。
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