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16-1 強制終了★
***
「う……はぁ……はぁ……はぁ……」
淫らな粘着音とともに、断続的な喘ぎが部屋に満ちていた。アレンが腰を振り深く抉るたびに、体内でかき混ぜられた白濁が溢れてシーツへと滴り落ちる。後背位で突かれるのは今夜だけでもう3度目だった。
陰茎と擦れあう内壁が充血しているのか、若干の痛みを感じる。休みを挟みながらだが、もう彼此6時間近く相手をしており疲労困憊だ。それに、この態勢では、お互いの顔が見えない。
ただただ相方の肉欲のために己が穴を提供しているような、寂寥感を抱きながらも、とはいえ彼を斯様にさせたのはノルマンに諮られた自分の責任という罪悪感があるので、拒むことは出来なかった。たとえ拒絶しても意味はないだろうし……。
アレンの頭には、窃盗団のことなど無かったことになってしまっているようだ。結界のせいで、外部の情報は遮断されているし、ホテルに張り巡らした漆黒の魔法幕のお陰で、時計の針さえ見なければ深夜と間違えてしまうだろう。
硬化の遅い接着剤を互いの腰に塗布しているかのように幾本もの糸が引いており、淫猥な攪拌音と低い打音が絶え間なく続いている。
「ア……アレンさん、僕、もう……疲れたし、ちょっと痛いよ……」
「痛いか?……ふぅ、そろそろ終わらせてやる」と、指を口の中に入れられる。
馬の轡みたいに噛んでいろってことだろうか?流石にこの態勢でフィニッシュというのは、人道的にどうかと思う。一応同意の上のセックスとはいえ、まるで獣姦だ。最初の発言通り、カミュは馬のように全速力で駆けさせられていた。
「んあ……ん……ひ……ああ……ああ……ああ……イく!……イイイイ」
体の中で大太鼓を叩かれているかのような衝撃と湧き上がる法悦に身もだえしながら、カミュは気を失い前のめりに倒れこむ。アレンは自立出来なくなった腰を捉まえて、何度か重いピストンを繰り返し、小さく呻くと尻からモノを抜いた。開ききった後孔からはだくだくと欲望の液体が流れ落ちていく。白濁に浸食されたシーツ、並びに、度重なる押圧で凹みかけたベッドはもう使い物にならないだろう。アレンは一瞬放心したように動きを止め、相方の尻から伝う粘液を見つめていたが、カミュの体を仰向けにしてやると隣に凭れこんだ。
「ああ……。良かったよ、カミュ」
浅い吐息をつきながら天井に向かって言うも、相方の返事はない。意識が飛んで、光を失った瞳は虚空を見つめている。咥えさせていた指をアレンは舐めた。歯型の痕が残っているが、甘い蜜の味がする。そそられると思いながら、愛しい人の蜜を舐めとっていると、淫奔な放蕩息子が再び力を持ち直すのを感じた。いつもと様子がおかしいが、疲労は感じないし、カミュの体さえ受け入れてくれればまだ頑張れそうだ、とやれやれと息を吐く。
5分ほどして、はっとカミュが息を吹き返したように目を見開いた。
「戻ってきたか。いい子だ……」アレンは傍らで、カミュの体を愛撫していた。一方で、屹立したものをカミュの手に握らせて、無理やり擦り、その先端からは白濁がぼたぼたと流れ落ちていた。
「う……」カミュは思わず呻いてしまった。悪夢のようで気分が悪くなってしまったのだ。
「どうした、カミュ。大丈夫か?」
——大丈夫か……って……。アレンさん、まだ元気なんだ……。
それに、『いい子』だなんて。僕が彼を追って町に来たときは『悪い子』と叱咤したくせに、都合がいいのだから。性欲の捌け口にうってつけなんだろうな、僕という存在は……。
辟易してきたものの、顔には出さなかった。薬に翻弄された相方を傷つけたくはなかったからだ。催淫剤の効果は最長3日と書いてあった。まだ、一日も経っていない。理性の箍が外れているのもそのせいなのはわかっている。
「僕は……大丈夫」
——そうだ。あの時も僕の勝手な行動で、取り返しのつかないことになってしまったんだ。彼だけが悪いだと一概に決めつけるなんて、そんな権利など僕にはないのだ。
「アレン、喉かわかないの?」しばらくの沈黙の後、ふいにカミュは訊ねた。
「え?ああ、始めてから一滴も飲んでないな。忘れていた……」
薬箱の側面には空腹感を感じなくなると書いてあったが、喉の渇きまで感じなくさせるのだろうか?精液をあれだけ放出しているのだから、体内の水分をかなり消費しているはずだ。このまま行為を続けていたら、体中の水分を失って干からびてしまうのではないか?と、カミュは薬効を恐ろしく思った。
「喉が渇いたのか?」
「え?」
「飲ませてやろうか?」アレンはつとベッドから立ち上がると窓辺に寄った。
「……おかしいな。空には雲一つないくせに、月も星も見えない。今夜は満月だというのに」
カーテンを柔くなぞりながら、ガラス窓から外の様子をうかがっている。漆黒の垂れ幕のせいで、周囲の建物すら判別できないため不審に感じたのだろうか。
カミュが視線を時計に移すと、午前3時を回っていた。ああ、もうすでに犯行時刻を過ぎている。何らかの動きはあったはずだ。自分も早くこの部屋から出なくてはいけないが、アレンに今の時間を知られるわけにはいかない。知られるわけにはいかないが……
「……アレンさん、お水飲ませて」覚悟を決めたカミュは、横になったまま猫なで声で懇願した。
アレンは振り向いてこくりと頷くと、ベッドサイドに置かれていた水差しをコップに開けて口に含んだ。口移しで飲ませてくれるのだろう。
「そう言えば、どうして今日は町のホテルなんかに泊まったの?用があったんじゃないの?」
「え?」
アレンは掛け時計に目をやり、コップを落としてしまった。ごくりと喉が鳴る音が部屋に響き渡る。吃驚の余り口内に満ちていた水を飲みこんだ音だった。視界がくらむ。頭痛と耳鳴りがする。先の薬より迅速かつ強烈に体全身に回っていく。
「び……びりゅつがん……い……いあな……いと」
口の呂律が回っていないことはわかる。アレンは片膝をついて、立ち上がろうとしたがならず、そのまま四つ這いとなる。見上げるとベッドの上にいるカミュのヘーゼルの瞳が据わっていた。瞼が強制的に閉じられ、カミュの冷徹な姿が見納めとなった。
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