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第4話
食パンを齧る。ただそれだけの動作なのに、仁がすると優雅に見える。動きの一つ一つに無駄がないのだ。器用で、何でも出来て、常に柔らかく微笑んでいて、俺にとってはヒーローのような義理の兄。
セックスだってとてもうまい。何というか技術とかそういうものではなく本能で、こちらの感じるところを察してくれているように思える。
唯一気になるところといえば、仁がイク時に必ず、とてもばつの悪そうな表情を浮かべることだけだ。まるでそれは、してはならないことをしてしまった時の子供のようで、やはり彼は心底、自分を恋愛対象として愛してくれてはいないのだろうと捉えてしまう。けれど、それでも共にいてくれるその優しさが嬉しく感じる、どうしようもない程に腐りきったこの心。
朝食の後片づけを手伝い終えると、車椅子から抱き上げられて縁側に座らされた。中心を破った新聞紙を手渡され、開いた穴へ頭を通してそれをケープ代わりにする。
ハサミを持った仁が、楽しげに鼻歌を歌い始めた。
「じゃあ、いつものショートにするな。前髪は眉上まで切っていいんだろう?」
「ベリーショートでなければいいよ。お任せで」
目蓋を閉じると、暖かい日の光を感じる。もう季節は夏を感じさせる頃となってきた。蝉の鳴き声はまだ聞こえないが、青い緑の匂いがする。
首筋にあたるハサミの感触が冷たくて、くすぐったさに肩を揺らしてしまった。
「こら、動くな」
言われた通り身体を固まらせると――どうして手が、首筋を撫でてくるのか。
「仁。髪は?」
「ああ。切るよ」
「全く切られている感じがしないんだけど?」
「お前が鈍いからだ」
首筋に、柔らかくて温かいものが触れてきた。これは――
「今、キスした?」
「してないしてない」
「したでしょう。目蓋、開いてもいいか?」
「駄目だ。まだ切っている途中だから」
また、首筋にキスをされたような感覚がした。いや、絶対にキスをされている。だってそこを食まれているから。
目蓋を開き、肩から振り返る。
にやりと笑っている仁の瞳は悪戯っ子のように輝いていた。
「どうかしたか?」
「やっぱり、キスしただろ」
「唇に、して欲しいって?」
「言ってない」
「そう。でも――して欲しいって、顔に書いてあるぞ」
顎を持ち上げられた。仁の唇が頬へと滑り落ちてくる。そのまま唇へと唇が到達するのかと思えば、それはさらりと去っていった。
「ほら、な」
うっすらと開いてしまったこの唇が阿呆のようで、羞恥心に顔が熱くなった。
「で、キスして欲しいか?」
「したいならさっさとしろって」
「したいのはどっちだ」
「仁」
尖らせて言った唇へ、掠めるようなキスが降ってきた。
「もっと?」
目元まで緩んだその目蓋がとても愛しくて、胸が、締め付けられる。
「どうだろうね」
わざと唇を大きく開き、舌を見せつけながら言うと――すぐに唇が寄せられた。軽く食まれ、舌が入ってきて、そのぬるりとした感覚に快楽の予感を受ける。首の後ろの産毛がざわりと逆立った。
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