にゅるにゅると舌が絡まり合い、徐々に身体が熱くなってくる。歯列を舌でなぞられて、自分でもわかるくらいに甘い息を鼻から吐いてしまった。 　両手で頬を包み込まれ、柔くそこを揉まれる。その触られ方にぎゅっと胸を掴まれた。 　愛されている。愛されていると、そう素直に思いたいのだけれど……たまに見せてくる悲しげな瞳を思い出すとどうしても、心へブレーキをかけてしまう。 　ああ、気持ちがいい。仁の匂いを感じる。凛と咲く百合のようなそれ。清々しく、しかし、思い切り花びらという股を開いて性器にも思えるおしべ、めしべを見せ付けている、濃厚ないやらしさ。 　いっそ、全てを忘れてこの恋、快感に浸りたい。啄ばむようなキスで授けられる、背中に生えてゆく翼をこのまま、大きく広げて―― 　唇。肉の弾力が、何度も、何度も、羽をそこへ植えつけてきて。唇の端から顎へ滴った唾液を唇ですすり上げられ、もう、少しで、飛べる。 　背筋に上ってくるぞくぞくとした感覚。仁の手が、頬から退いて、ケープ代わりにしている新聞紙の下から中へ潜り込んできた。薄いティーシャツの上から乳輪をなぞられて、下腹部がきゅんと疼く。 　その間もキスは止まず、息が苦しくなってきた。下唇を唇で挟まれ引っ張られて、じゅじゅっと吸われ……好きと、言えたならば。言いたい、唇が、疼いて、疼いて、たまらない。 　仁の、鼻から漏れた吐息が頬をくすぐってきた。苦しい。息が。触れ合う唇の熱に翻弄されてしまいそうな理性を留めておくことが。 　飛びたい。早く、もう、少しで、足が浮く――この動かぬ足が、浮くわけ、ない。 　キスが止んだ。唾液で濡れた唇へ、春の、まだ僅かに肌寒い空気が触れてくる。 　至近距離で見つめてくる瞳を囲む睫毛は長い。 　新聞紙を取り払われた。 「髪、切るのは後にして、ベッドへ行こうか？」 「いや、さっさと切って。邪魔で仕方がないんだ」 　しれっと言うけれど本当は……行きたい。そこでどろどろに溶けるくらい深く激しいセックスがしたい。でも。さっきまで生えてきていた翼は、その形を完成させる前に理性の元へ散った。 　罪悪感から素直になれず、その、素直になれないことで仁を傷つけていやしないかと、さらなる罪悪感が重なってゆく。それはどんどん胸の中にあるグラスへ溜まってゆき、もうそろそろ溢れ出しそうだ。 　抱かれても、キスをされても、触れられ、愛していると囁かれても――言えない。応えられるわけがない。そんな権利は荷物になってしまった自分にないのだ。 　そして、聞きたいことがどんどん溜まってゆく。本当に？　足が駄目にならなければ俺を選びはしなかったでしょう？　同情心からくるものではないの？　傍にい続けなくてはならないから、仕方がなく手を打ったのでは？ 　表に出せない分、その複雑な感情は身体の中を渦巻いてゆく。この熱はいつ冷めるのか。このまま冷めぬならば、いっそ、身も心も焼き尽くされてしまえばいいのに。 　好きだ。愛している。ずっと一緒にいて欲しい。お願いだから、離れないで。そう言ってしまいそうになるこの口へ、何度も、何度も錘を重ねる。 　いやらしい手つきで肩を撫でられた。 「本当に？　セックスしたくないって？」 　仁にそう言われた時、縁側から見える玄関に、誰かが立っている姿へ気づいた。