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第11話
席が隣になって親しくなった。初めてできた女友達であり、家へもよく遊びに来ていた。いつの間にか仁と付き合い始めて、妙な感じがするようになったので、俺はあまり彼女とは接しないようになったのだが――一体何を言い争っているのだろうか。記憶が正しければ加藤と仁は付き合ってから大体半月が経過している。そしてあと半年は付き合うことになるはずだ。高校三年。受験の真っ最中である大切な時期に振られたと噂で聞いた。
加藤が仁に詰め寄っている。
「何で別れようって言うの!」
「付き合う理由がなくなったんだ」
「何よそれ! 私の事が好きだって、モーションかけてきたのはそっちの癖に!」
違和感を覚えた。この時期に、俺への恋心を自覚したのだとしたらば、何故、残り半年も彼女と付き合い続けていたのだろうか。その後だって、様々な女性と浮名を流していたではないか。
あの謎の人物が放った言葉が頭へ蘇ってきた。
――彼が貴方を好きだと自覚した時まで時間を巻き戻る――仁が加藤と付き合ったのは約半月前。こうしてこの日に戻ってきたということは、自覚をしたのは今日だったはず。そして、仁から彼女へアタックをしていたらしきこの会話。
ああ、考えがまとまらない。
ぱぁんと乾いた音が鳴り響いた。どうやら仁が頬を叩かれたようだ。
「あんたを選ばなければよかった!」
加藤は叫ぶように言うと、階段を素早く駆け下りていった。すぐに玄関のドアの閉まる音が聞こえてきて、恐るおそる廊下へと出てみる。
仁と目が合った。やれやれ、と言った風に肩を竦めている。
「ど、どうして振ったんだ?」
「さぁ? 何で付き合ったのかもよくわからんからな」
首を傾げる仁へ、こちらも首を傾げてしまう。
「仁からモーションかけたって言ってたぞ?」
「それが不思議なんだ。何でそんな気になったのか、俺にも自分がわからんよ」
「わからんって、好きだったんじゃあないの?」
指摘すると、頭を掻きながら唸り始めた。
「あー、まぁ、いいか。お前には伝えておいた方が何かと協力してくれるだろうし。誰にも言うなよ? お前にしか言わないからな」
真剣みを帯びた顔を目にし、唾を飲み込んだ。
「何?」
廊下の空気が冷たい。肌に受けるそのひんやりとした感覚に、緊張感が増した。
黙って仁を見つめていると、悩むように口ごもった後、朗らかに笑いかけられた。
「やっぱ、やめとく。また今度話す機会があったら打ち明けるわ」
気になるではないか。
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