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第12話

 それにしても、仁から受ける印象ががらりと変わったように思える。自分の知っているこの頃の彼は、もう少し、何というか……距離を感じた。  話しかけてもいつも上の空だったし、時たま朝の挨拶を無視されるくらいだったのに――今は、そう、兄弟らしい。  これが、俺へ恋愛感情を持っていない仁の態度なのか。その、距離のなさがとても胸に突き刺さってくる。 「そういえば今日は、伊織と俊介が遊びに来るんじゃあなかったか? あいつら遅いだろ。もう三時を過ぎてるぞ?」  仁がそう言ったタイミングで玄関のチャイムが鳴った。  階段を下りてゆくこの足の、何の邪魔も受けないで動く感触に、胸が痺れたような感動が湧き立つ。  玄関を開くと、外には二人の姿があった。 「仁さんは? いるんだろ?」  顔を合わせて早々に伊織より言われ、こいつは昔から変わっていないのだなと苦笑してしまう。  伊織から俺に対する態度はいつもこうだった。足が動かなくなってしまってからはそれが、酷く辛く感じるようになったのだが……今は、さほど痛みを受けない。罪悪感がないからだろう。  伊織の後ろに立っていた俊介が、彼の後頭部を小突いた。 「響と遊ぶために来たんだろ」 「俺は仁さんに会いに来たんだ。そういえば、喉が渇いたんだけど」  確かこの頃、伊織は炭酸飲料を好んで飲んでいた。しかし俺たち家族は炭酸が苦手なので、家にそれは置いていない。  とりあえず二人を玄関に通す。  靴を脱いだ途端に伊織は、ズボンのポケットから手鏡を取り出し髪型をチェックし始めた。  つい、その裏側を確認してしまう――猫のイラストが描かれている。 「お茶でいい?」  胸が騒いだことを隠しつつ、二人へ言う。  唇を尖らせ眉を顰めた伊織を見て、俊介がまた靴を履いて玄関の外へと出て行った。  何なのだろうかと首を傾げ、ああ、とすぐに察した。俊介は昔から、伊織の望むことは何でも察して、それを頼まれなくてもしていたな。  いつだって、俊介の気持ちはぶれないようだ。それは伊織も、か。十年経過しても、俺たちの気持ちのベクトルは変化を見せなかった。  伊織を部屋へ通すとすぐにまた玄関のチャイムが鳴ったので、出迎えに行く。やはり、その手には炭酸飲料水のペットボトルが握られていた。 「すまんが、グラスを用意してもらえるか? 伊織はペットボトルに直接口を付けられないから」  ペットボトルを受け取って、俊介を部屋へと促す。

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