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第20話
「下着、脱ぎたいか?」
さっきの仕返しのつもりなのだろうけれど、意地悪だ。こんな面もあったのかと少々驚いた。いつも優しい笑みを浮かべている彼が、強い雄の姿を見せてきている。
黙って頷くと、仁はまた顔をパンツに近づけた。足が両手に持ち上げられ、パンツの端を咥えられて、それを足首まで一気に脱がされる。濡れた布地が足を擦ってゆく感覚に微かな震えが起こった。
一旦両足はベッドの上にまた下ろされ、今度は優しい手つきで右足から、次は左足からパンツを引き抜かれる。そしてそれを床に放ると仁は――左足に、唇を滑らせてきた。
「仁。そこはいいよ。だって何も――」
感じないから、と、言おうとしたのに……そんな悲しげな目で、俺を見てくるから。唇を閉ざしてしまう。
左足に滑っていた唇が、右足へ移動した。そこも、唇で輪郭をなぞられる。
棒のように細いことが少し恥ずかしくて、けれど、仁の好きにさせたくて、唇を固く結ぶ。
幾度も降ってくるキスの雨は、きっと、仁の涙なんだ。
「仁」
名前を呼んで、手招きをする。
やっと覆いかぶさってきたので、舌を出してキスへと誘った。
数回、瞬きをした後に仁は笑った。泣きそうな、顔で。
「ずっと、願ってきた。こうやって、お前も俺へ応えてくれることを、ずっと、ずっと……それなのに。それがこんなに――……胸を締め付けてくると、は……っ」
ぶわりと、仁の目に涙が浮かび上がってきて、駄目だ。いけない。
そんな風に自分を責めないで……ああ、これは。鏡だったんだ。俺と、仁は鏡合わせで立っていた。
俺が素直になることで、仁の苦しみは増すのか。余計に、辛くなるのか。でも。それでも、そんなものを吹き飛ばすくらい――……小さく、笑ってしまった。そんな考えもきっと、鏡合わせだったのだね。だから仁は、はっきりと気持ちを告げなかった俺の傍に、それでも、と居り続けたのだろう。愛を注ぎ続ければ、きっと、いつか必ず幸せにしてやることができる、と。
顔の上に涙が降ってくる。
形が良く細い二重目蓋が瞬きをするたびに、きらきらと、涙が光を反射させて、綺麗。
手を伸ばして仁の頭を胸に抱きしめる。
何かを言おうと思ったのに、言えなかった。
どうして、何故、何でなんだ。運命を呪うその気持ちは痛いほどよくわかる。もしもこうしていたら、ああしていたらとたどり着ける訳がない未来を想像しては落ち込んで、声にならぬ悲鳴を上げる苦しみ。それを誰にも相談出来ず、己の中へずっと飼い続けると次第に、心の芯――魂が、濁ってゆくような感じを覚え始めるんだ。何とかそこから這い出ようと足掻いても、現実は決して変わらない。せめて夢の中だけは全ての苦痛がないようにと願い眠って、希望が叶えられても、起きた時に絶望が二割ほど増すだけ。
仁が顔を上げた。まだ表情は曇っている。
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