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第21話
濡れた頬を両手のひらで拭ってやり、目を覗き込んだ。しっかりと視線が合わさっていることを確認してから、口を開く。
「今まで、本当にごめん。この足がこうだからって、卑屈になって……全然素直になれなかった。全部、足のせいにしていたんだ。ただ俺が臆病だっただけで、そんなものは関係なかったのにさ」
何かを言おうとした唇へ指を一本当てて、黙らせる。
「もう、そういう自分は変えたいんだ。だから、聞くよ。足がこうだとか、そういうものは関係なしに俺が好き? 愛してる?」
答えはもうわかっていても、あえてたずねる。俺が何に不安を抱いていたのかを知って欲しいし、仁の口からそれを聞きたい。
外に突風でも吹き荒れたのだろうか。一瞬窓ガラスがガタタっと音を立てた。
絡んでいる視線は外されない。
「俺は響を愛している。それは、足がどうとか関係ない。気持ちに気づいたのはお前が高校二年の頃だが、よくよく考えれば出会った頃から好きだったように思う。初めて挨拶をした時に、な。嬉しそうに返してくれた笑顔が、ずっと」
やっと、表情が、僅かではあるけれど柔らかいものに戻った。
上半身を少しだけ起こし、自分の胸へ手を当ててゆく。
「ここに、貼り付いて。何度剥がそうとしても決してそれは剥がれなかった」
仁の手に、俺の手も重ねる。
「今もある?」
「あるよ。そして、これからもずっと――例え俺が死んだとしても、それは魂に貼り付いて、やはり剥がれないだろう」
ゆっくりと微笑してゆくその顔に、胸を締め付けさせられた。
仁の手を取って、こちらの頬へと誘導する。
その大きな手のひらに頬を摺り寄せた。
「俺もね。ずっと、言えなかったけれど……でも、心の中にはいつも――仁への愛があったよ」
……一瞬で、真っ赤に染め上がる顔なんて初めて見た。
見開かれる目蓋。唇が、震えてゆく。
「俺もずっと、それを聞きたかった。しかし、どうしても言えとは、催促……できなかったんだ」
絞り出すような声が胸――いや、魂に響いてきた。
優しく頬を撫でられてから、背中に手を回されて、上半身を起こされる。
ベッドに二人で向かい合わせて座る恰好になり、強く抱きしめられた。
「これは、夢か」
耳元に囁かれる。
「現実だよ。けれど、夢だとしても構わないかな。ずっと目を覚まさなければいい話だから」
仁の、まだ赤みを残している耳へ優しくキスをすると、背中に回っていた手が退いた。流れるような動作で顎を持ち上げられる。
近づいてくる唇に応えて、こちらも唇をうっすらと開かせた。
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