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八雲1

   今日、部屋に残っているのは、真田という若い男だった。 「どうしました? 透さん」 「ちょっと外に出たいんだけど」 「ダメです。そんなことしたら組ちょ……彰広さんに叱られます!」 その言葉に透は眉をしかめる。 「じゃあ……じゃあ真田さんが一緒について来ればいいじゃないですか?」 「それこそダメです。殺されます!」 真田の対応に透は苛立つ。彰広は何も教えてくれず、ずっと軟禁状態が続いているのだ。 「このままじゃ窒息しそうなんだよ!」 透は真田を押しのけ、ドアへと向かう。 「ダメです! 透さん!!」 真田が透の腕を掴んで引き止めた。 「痛っ! 離せよ!!」 透は必死で暴れてもがくが、真田を振りほどくことができない。 「お願いです。大人しくしててくださいよ」 「離せって……!」 玄関先で揉み合っていると、背後から冷たい声が聞こえた。 「何してる」 「八雲さん!」 玄関から入ってきたのは八雲という男だった。 背が高く細身だが、華奢という印象はない。 切れ長の一重の瞳とリムレスフレームの眼鏡が冷たい印象を与えた。 「すぐに彰広さんが戻る。お前は下へ降りていろ」 「はい」 まるで感情の無いような抑揚の無い声で命じる。八雲と入れ違いに、真田が部屋を出ていった。 「………」 透はこの八雲という男が苦手だった。 能面のような無表情でいて、すべてを見透かすような目をしているからだ。 「大人しくしていてください。あなたのわがままで罰を受けるのは真田です」 「……ッ!」 なにがわがままだよ! この部屋に閉じ込めっぱなしのくせに!! 透は怒りを露に八雲を睨んだが、例の冷たく見透かすような目で見られて、気まずそうに俯いた。   

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