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八雲2

八雲は俯いた透を静かに見つめた。 透のわがままだと言ったが、何も知らされず軟禁状態にいれば苛立って当たり前だ。 もし自分なら、真田をぶちのめしてでも外に出るだろう。 だが、彰広の命令だ。 透には申し訳ないが、大人しくしていてもらわねばならない。 彰広は今まで特定の愛人を作らずにいた。 中山透と関係を持つようになっても、ひた隠しにして、こちらの世界の人間には見せないようにしていた。 彰広は若く、野心家で、カリスマ性がある。 求心力があり、才能のある者を集め、従わせる能力があった。 闇の世界でのし上がる才能があるのだ。 透を得てからは更に水を得た魚のようだった。 どんな女なのかと思っていたが…… 男だと知ったときは驚いた。 これまで彰広がセックスする相手はみな女だったし、ゲイには見えなかった。 だが、透を見て納得がいった。 すっきりと整ってはいるが、いたって普通の青年だ。なのに、そこはかとなく滲み出る婀娜っぽさが非凡さを醸し出している。 本人が望まなくとも、巻き込まれ、執着され、まっとうに生きることができなくなる。 夜の世界には、時折こんな雰囲気を纏う女がいる。 本人の美醜に関係なく、特定の男を無意識に惹きつけてしまう。 望まないのに、昼の陽の世界から夜の闇に引き堕とされるようなタイプの女と雰囲気が似ていた。 透は男だが、そんな業の深い女に似た空気を纏っていると八雲は思った。 それに……透を見る彰広の目。 ある程度、地位や金を手に入れた男が愛人を囲うのは珍しい話じゃない。 性欲のはけ口や、男としてのステイタスとして囲うものもいる。 だが、この透は違う。 彰広の鎧を剥がす相手だ。 彰広は野心家で敵も多い。敵にも味方にも弱い姿を見せるわけにはいかない。 彰広はその精神に常に鎧を纏っている。 誰にも隙を見せないように。 誰もがひれ伏すように。 彼が頂点に立つ才能を持つ男だからだ。 透はその鎧を一枚、一枚、剥がしていき、裸の心を抱くことができる相手だと感じた。 そうして、むき出しの精神を受け入れてくれる相手ができたことで、彰広は更に強靭な鎧を纏うことができるのだ。 今、彰広に透を失わせるわけにはいかなかった。 八雲は自分がトップに立つよりも右腕となり、サポートする才能の方があると理解していた。 彰広の能力をいち早く見抜き、常に支え、上を目指してここまで来たのだ。 「さあ、部屋に戻って。彰広さんを待っていてください」 八雲は悔しげに唇を噛みしめる透を静かに促した。

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