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余韻3

  透はシャワーを止めてから、着替えを忘れたことに気付いた。舌打ちしたい気持ちになる。 今さらか……。 腰にタオルだけ巻いて、バスルームを出た。 だが、リビングに真田はいなかった。 窓が開いており、どうやらベランダに出ているようだった。 今の内に透は寝室に戻り、グレーのTシャツに黒のスウェットを穿いた。 ドアを開けてリビングに戻ると、ベランダからちらりとこちらを見た真田が部屋に入ってきた。 「透さん。おはようございます」 「あ……おはよう」 何事も無かったように真田が話しかけてきた。 「お腹空いてませんか? 何か食べます?」 「何か、軽いものがあれば……」 「スープがあるので、温めますね」 にこっと笑って、真田はキッチンに向かった。 透は肩の力を抜いて、緊張を解いた。 真田は八雲よりも若く、少し上田に似ている。 ヤクザらしくないというのは、褒め言葉にはならないのかもしれないが。 透はリビングのソファに座って、ぼんやりと足元を見つめた。 昨夜のラグのシミは綺麗に消えていた。 「………」 ここ数日、彰広とまともに話せていない。 何も教えようとせず、部屋から出してくれない彰広に対して苛立つ透を強引に抱く。その繰り返しだった。 透はため息をつき、ぼんやりとシミ一つ無いラグを眺め続けた。  

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