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真田1
透は真田が運んだスープを飲んだ。
ここ数日、食欲が落ちていて、透は少し痩せていた。
「ありがとう。ごちそうさま」
「いえいえ。あ、透さん。ゼリー食べません?」
真田が冷蔵庫から桃のゼリーを出してきた。
「近所のタバコ屋のばぁちゃんにもらったんすよ」
人懐こい笑顔で真田が言う。
「じゃあ、貰おうかな」
本当にヤクザらしくない。
透は少し笑って受け取った。
真田はソファには座らず、ダイニングの椅子に座ってゼリーを食べた。
「コンビニとかでもタバコ、買えるんですけど。なんか、タバコ屋のばぁちゃんがいい味出してて。俺、そこでタバコ買うことにしてるんですよ」
「そうなんだ」
ふと、行きつけの居酒屋の奥さんを思い出す。
急にいなくなった透のことを心配しているだろうか。
いや、彰広が何か手を回しているいるようだし、自分が居なくなったことなど、誰も気にしていないかもしれない。
また、憂鬱な気持ちになる。
「昨日。すみませんでした」
「えっ?」
透は俯いていた顔を上げた。
「腕、掴んでしまって」
「………ああ。でも、俺がわがまま言ったから………」
「わがままじゃないですよ」
ゼリーを食べながら真田が話す。
「透さんは、こっちの世界の人じゃないでしょ。逃げ出したくなって当然です」
「………」
………いや、彰広から逃げ出したい訳じゃない。
嫌なのだ。こんな生活は。
自分は女じゃない。
仕事もしていた、自立した大人の男だ。
こんな風に囲われて生きるのは、無理だ。
「嫌じゃないのか? その………彰広が、俺と………」
透は試しに聞いてみた。
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