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その全て1

透は指先から血の気が引いていくのを感じた。 二度と彰広に会わない。 その選択肢だけは無かったからだ。 透は黙ったまま、目の前に置かれた鍵を見つめた。 そんな透の様子を見ながら、八雲が言葉を続けた。 「あなたが彰広さんを選ぶというなら、私は全力であなたをサポートします」 「え?」 透は驚いて顔を上げて、八雲を見た。 「その代わり、他は全て捨ててもらいます。彰広さん以外は諦めて下さい」 話はそれだけだと、八雲は立ち上がった。 「ゼロか百か。よく考えて、選んで下さい」 去り際にそう透に告げて、八雲は出て行った。 軟禁生活において、初めて透は一人きりになった。 部屋を出た八雲はエレベーターに乗り、一階のボタンを押した。 これは賭けだ。 この八雲の行動を彰広は知らない。 もし、透が逃げ出せば……… 私を殺すかもしれないな。 八雲の薄い唇に珍しく笑みが浮かぶ。 どんな時も八雲は負けるような賭けはしない男だった。

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